心電図
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転写制御とイオンチャネル発現―イオンチャネルの発現を規定する転写因子制御を介したバイオペースメーカの可能性―
小野 克重
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2008 年 28 巻 4 号 p. 321-327

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抄録

心筋細胞は刺激伝導系に分布する特殊心筋と心房筋や心室筋を構成する作業心筋に分類される.このような機能による細胞の区別は心臓の発生初期から経時的かつ空間的に進行し, 最終的にイオンチャネルや受容体, あるいは収縮蛋白という細胞内小器官の発現の有無やその量的差異によって形成される.心室筋細胞は内向き整流K+チャネルの発現が豊富であるため深い静止膜電位を維持することができ, 洞房結節細胞は内向き整流K+チャネルの発現が乏しくT型Ca2+チャネルや過分極誘発内向き陽イオンチャネルの発現が多いために自動能を有する.一方, 肥大心や不全心などの病的心筋では形態的リモデリングに伴い, 細胞の電気的興奮性の変化が生じる.これを電気生理学的リモデリングとよぶ.リモデリングに伴う細胞のイオン電流の変化は単に発現チャネルの増減という量的変化にとどまらず, 本来の正常成熟心筋では認められないイオンチャネルが発現したり, 刺激伝導系細胞に特異的に発現するイオンチャネルが作業心筋細胞に発現するなどの質的変化も伴う.病的心筋細胞では胎生型遺伝子の再発現が認められる.このような胎生型遺伝子のpromoter領域には, 心筋の分化発生に重要な役割を果たす転写因子であるCsx/Nkx2.5, GATA4あるいはMEF2Cなどの結合部位が存在し, この転写因子群の複合作用によってあたかも心臓が未分化細胞から発生分化するような段取りで病的心筋はリモデリングを受ける.このような心筋特異的転写因子を心臓の特定部位で制御することで自身の心臓内の作業心筋細胞を自動能を有する結節型細胞に形質変換できる可能性がある.

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© 一般社団法人日本不整脈心電学会
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