教育医学
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中国の蒙古族青少年の身長発育における時代的考証
-1985年と2005年との比較-
烏雲格 日勒藤井 勝紀花井 忠征田中 喜代次
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2007 年 53 巻 2 号 p. 215-230

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抄録

 本研究は,中国民族の1つである蒙古族の1985年と2005年の青少年期における身長発育を比較検討することによって,中国蒙古民族の身長発育における時代的変化を検証しようとした.これまでの解析手法では発育現量値曲線の解析がほとんどで,さらに速度曲線の解析では年間発育量という差分値の解析によるものであり,これでは大型化は示せても早熟化を証明する客観的な手法を保証することができない.そこで,藤井(2006)が提唱したウェーブレット補間法を適用し,身長の発育速度曲線の記述から思春期最大発育速度年齢(maximum peak velocity : MPV)を特定し,MPV年齢およびMPVの年次変化を検討することにより,中国蒙古民族における身長発育の早熟化と速度曲線の時代的変化について検証した.資料は,中国の1985年,2005年に実施された「中国全国学生体質・健康調査」のデータから内蒙古自治区の蒙古族と漢民族(7〜18歳、男女)の身長のデータを抽出した.日本の資料は,1985年,2005年に実施された文部科学省の「体力・運動能力調査報告書」のデータから身長のデータを使用した.  その結果,日本人の身長に関しては男女ともそれほど顕著な時代的変化は認められなかった.しかし,漢民族,蒙古族では男女ともMPV年齢が早くなる傾向を示した.特に,蒙古族では顕著な傾向が示され,明らかに成熟度が早くなっていた.1985年から2005年の最近20年間では,日本人が社会経済の高度成長化によって影響された成熟度の早熟化現象に類似した傾向を示していると推測された.このことは近年の中国内蒙古自治区の蒙古族における食生活環境の大幅な改善,社会,経済的環境の改善が要因と推測される.

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2007 日本教育医学会
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