抄録
【目的】造血器腫瘍患者においては原疾患の直接的影響や化学療法、放射線療法等により身体的障害を来たすことが多い。我々は先行研究にて同種造血幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation:allo-SCT)後は握力、下肢筋力、片脚立位などの運動機能が低下し、特に下肢筋力低下が著明であることを報告した。今回、allo-SCT後の下肢筋力低下をもたらす要因ついて検討したので報告する。
【方法】対象は2007年から2009年に当院でallo-SCTが施行され解析が可能であった21例とした。性別は男性13例、女性8例、移植時年齢は28~64歳(中央値45歳)であった。移植細胞源は血縁者5例、非血縁者16例、移植前処置はフル移植14例、ミニ移植7例であった。対象は入院期間中に下肢筋力トレーニングを中心とした理学療法を実施した。理学療法は無菌室入室約3週前から開始し、無菌室内治療中および無菌室退室後も患者の全身状態に合わせ可能な範囲で実施した。下肢筋力測定を無菌室入室前と移植後100日目に実施した。下肢筋力測定は三菱電機エンジニアリング社製Strength Ergo 240を使用し、アイソキネティックモード、ペダル回転速度50r/min、測定回数5回で最大脚伸展トルク値(Nm)を測定した。移植前後での下肢筋力変化率(%)を(移植後100日目-無菌室入室前)÷無菌室入室前×100で求め、年齢(高低)、性別(男女)、移植細胞源(血縁者、非血縁者)、移植前処置(フル移植、ミニ移植)、急性移植片対宿主病(acute graft-versus-host disease:aGVHD)重症度分類(グレード0~2、グレード3~4)、ステロイド投与量(高低)、移植後の血清アルブミン値(高低)について比較検討した。なお、年齢、ステロイド投与量、血清アルブミン値の高低群の分類には中央値を採用した。統計解析はMann-WhitneyのU検定を使用し有意水準5%で有意差ありと判定した。
【説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】下肢筋力は無菌室入室前1.8±0.6Nm/kg、移植後100日目1.4±0.5Nm/kgであった。移植前後の下肢筋力変化率は-22.1±24.3%であった。下肢筋力変化率と各項目の関係では、年齢は45歳以上群-16.2±17.8%、45歳未満群-28.5±29.5%、性別は男性群-22.7±26.5%、女性群-21.0±22.0%、移植前処置はフル移植群-22.1±27.5%、ミニ移植群-22.0±18.3%で有意な差を認めなかった。ステロイド投与量は高投与群-31.0±21.0%、低投与群-12.3±24.8%(p=.057)で差を認める傾向にあった。移植細胞源は血縁者群-0.5±6.1%、非血縁者群-28.8±24.0%(p=.026)、aGVHD重症度分類はグレード0~2群-15.4±19.1%、グレード3~4群-62.2±1.1%(p=.007)、血清アルブミン値は3.4g/dl以上群-12.5±16.5%、3.4g/dl未満群-34.8±28.0%(p=.047)で有意な差を認めた。
【考察】近年、allo-SCTの実施数は増加しており移植後の運動機能低下およびQuality of life低下に対する治療と予防が重要になってきている。今回の研究では、移植後100日目の下肢筋力低下には移植細胞源、移植後合併症、移植後の栄養状態など様々な要因が関与している可能性が示唆された。したがってallo-SCT患者に対する理学療法では、aGVHD出現によるステロイド投与および低栄養状態の期間に下肢筋力低下を予防することが特に重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今後、造血器腫瘍患者に対するallo-SCTの適応は拡大しallo-SCT患者数も増加してくると予測される。したがって患者の運動機能を低下させることなくQuality of lifeの維持改善のためにも理学療法は必要であり、本研究は理学療法学研究として重要であると考える。