抄録
市立札幌病院静療院が運営する,第一種(医療型)自閉症児施設のぞみ学園において,2005年12月,ノロウイルス胃腸炎のアウトブレイクが発生した.6日間で,入所者16名中12名,職員31名中4名が感染した.市立札幌病院ICTに要請があり,静療院感染対策委員会と合同チームを設置し対応に当たった.感染経路は,外泊中に感染した入所者により,本ウイルスが園内に持ち込まれ,閉鎖環境内で接触を主体としたヒト—ヒト感染によって拡大したと推定された.本園入所者は,重度の精神遅滞合併者が多く,意志疎通や衛生行動が困難な上,病室隔離や,職員の防護具装着が入所者の精神面に影響するなどの感染対策上の障害があった.対策の目標を隣接する静療院への感染拡大と職員の二次感染阻止におき,職員の防護具はやむを得ず最小限にせざるを得なかったが,本園の早期閉鎖,人の移動・交流制限に加え,園特有の対策として,床を含めた日に複数回の環境清掃・消毒,園外へ出る職員の手と衣服のバリアなどを付加した.対策開始後まもなく,防護不足や手指衛生などの技術的破綻が誘引と思われた職員感染者が出たが,4日目以降は制御し,園限局のアウトブレイクで速やかに終息した.その要因として,これらの感染対策の複合的な効果の他,合同対策チームの設置,連携窓口の一本化,報告・指示体制などを速やかに構築し,対策の決断と導入が迅速に行われたためと考えられた.