抄録
集団避難生活中の被災者の健康維持には,医療・保健関係者のみならず,環境を調整する防災担当者の感染症に対する認識が求められる.そこで,47都道府県の県庁・市役所の防災担当関係者等(以下自治体)の,災害時の感染症対応とその知識・認識を明らかにするために,942自治体に郵送法による調査を行った.結果は611自治体(回収率64.8%)から回答を得た.災害時の対応は,89%以上の自治体が「不充分である」,「どちらともいえない」と回答し,充分な対応ができないという認識であった.その要因は,自治体が対応できる人数の少なさ,災害時の感染症に対する研修の少なさや知識不足であった.感染症に対する知識は,「充分である」22自治体(3.6%),「不充分である」459自治体(75.6%),「どちらともいえない」126自治体(20.8%)であった.残差分析の結果,感染症知識が「不充分である」と災害時の対応が「不充分である」との間,感染症知識が「どちらともいえない」と災害時対応が「どちらともいえない」との間に,それぞれ有意な相関が認められた.264自治体(43.5%)が最も注意する感染症は「呼吸器系の感染症」であった.また,対策が必要な細菌・ウイルスは「インフルエンザウイルス」,「ノロウイルス」であった.研修等の企画に,自治体・地域住民に対する集団避難生活中の感染予防対策を取り入れ,知識の充足を図る必要がある.