日本環境感染学会誌
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総説 (疫学・統計解析シリーズ)
3. 偶然・バイアス・交絡:その研究結果は真実?それとも、偽り?
操 華子
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2014 年 29 巻 2 号 p. 67-79

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抄録

  Gleenhalgh は彼の著作の中で、“ゴミ箱行き”の論文の科学と題した章の冒頭で、以下のように述べている。
  発表された論文の中には(正直者は99%にも及ぶと言うだろう)ゴミ箱行きのものがあること、そしてそのような論文は実践現場に有用な情報をもたらすことがないので、活用すべきではないことを学生たちが学ぶと、きまって驚いた表情になる。1979年、Dr. Stephen Lock(当時のBMJ の編集長)は、『よいアイデアには基づいているが、用いられた方法に取り返しのつかない欠点があり、その論文を不採用にしなければ ならないことほど医学雑誌の編集者にとってがっかりすることはない』と書いている。その15年後、Doug Altman は方法論上の欠点のない医学研究は、全体のたった1%のみであると訴えた。そして最近でも、“質の高い”雑誌に掲載された論文にでさえ、重大かつ基本的な欠点が一般的に見受けられることが確認された。
  厳格な査読制度のある学術雑誌で発表されている研究論文でさえ、結果の真実を歪める、別の表現をすると偽りの統計学的有意性を作り出すような問題を孕んでいる論文が少なくないことをGleenhalgh は指摘している。そのため、既存の研究論文をエビデンスとして活用する臨床家・実践者には、批判的吟味(Critical appraisal)の能力が求められる。また、エビデンスを作り出す研究者には、偽りの統計学的有意性を作り出す要因についての知識を持ち、その問題を最小限にするための配慮と努力が求められる。
  本稿では、研究成果として偽りの統計学的有意性を作り出す要因である偶然誤差、系統誤差(交絡)について概説する。感染制御の領域で頻用される研究デザインを使用した研究例を紹介し、各研究デザイン特有の問題を説明する。

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© 2014 一般社団法人 日本環境感染学会
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