日本環境感染学会誌
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HBVキャリアが診断時に体験した医療者の倫理的行動―標準予防策による影響の検討―
福井 幸子矢野 久子安岡 砂織大西 香代子
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2021 年 36 巻 1 号 p. 66-71

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抄録

わが国では,長い間,疾患特異的感染対策が実践されていたが,現在は,疾患非特異的感染対策である標準予防策が,医療関連感染制御を支えている.標準予防策は,本来,患者および医療者双方の感染リスクを低減するために実施されるものであるが,感染症の有無にかかわらず,全ての患者に適応し実施されるため,感染症の患者にとっては差別的扱いを感じることなく医療が受けられるという副次的な効果が予測される.今回,標準予防策の実施が,感染症患者の人権尊重に影響しているかを明らかにするため,HBVキャリアが体験した医療者の倫理的行動について調査した.標準予防策の普及年を2003年とし,普及前群124名,普及後群37名が回答した医療者の倫理的行動24項目の点数をMann-WhitneyのU検定により比較した(有意水準α=0.05).その結果,HBV感染に伴う区別や,医師による病気についての説明と告知後のサポートに関する8項目は,普及後群が有意に高く,倫理的行動に改善がみられた.

標準予防策の実践は,感染予防のみならず,HBVキャリアが受ける差別や偏見,そして周囲の人に感染させるという不安の軽減にもつながり,倫理上の価値をもつことが示唆された.

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© 2021 一般社団法人 日本環境感染学会
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