日本環境感染学会誌
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総説
MRSAの感染制御
中村 茂樹
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2022 年 37 巻 6 号 p. 217-226

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抄録

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は1960年代以降全世界に拡散し,その後約60年が経過した現在でも医療関連感染および市中感染の原因菌として最も重要な病原体の一つである.多面的介入の実践によって2000年以降MRSAが及ぼす疾病負荷は,感染対策や流行クローンの地域性によって多少異なるものの,多剤耐性グラム陰性菌と比較し年々減少傾向を示している.これは各医療機関における感染対策の徹底や抗菌薬の適正使用が功を奏したものと推察される.一方,わが国の黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合は50%前後で下げ止まり,市中感染型MRSA(Community-Acquired MRSA;CA-MRSA)の院内伝播の増加や,院内感染型MRSA(Hospital-Acquired MRSA;HA-MRSA)の市中保菌者が増加するなど,各医療機関単独で感染対策を完結することが困難になりつつあることがその理由として考えられる.MRSA感染症は無症候性保菌から皮膚軟部組織感染症,致死的な侵襲性感染症に至るまでその病態は多彩である.MRSA感染対策の基本は感染源の特定と標準予防策や接触予防策による感染経路の遮断,抗菌薬(抗MRSA薬含む)の適正使用,そしてハイリスク患者への適切な支援・介入であるが,今後は地域全体でその動向を把握し感染対策を講じていくことが重要である.

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© 2022 一般社団法人 日本環境感染学会
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