予防精神医学
Online ISSN : 2433-4499
神経発達症を背景に、精神病発症リスク状態から統合失調症を発症した1例~mismatch negativity測定結果からの考察~
樋口 悠子高橋 努笹林 大樹西山 志満子鈴木 道雄
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2021 年 5 巻 1 号 p. 87-96

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抄録

自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder; ASD) に統合失調症が併存する割合については様々な報告があるが、ASDでは統合失調症に類似した症状がみられることがあり、時に鑑別が困難な症例を経験する。われわれは神経発達症を背景に精神病発症リスク状態を経て統合失調症を発症した症例を経験したので報告する。症例は10代男性。乳幼児期に発達の遅れがみられ、4歳時に小児科でASD、注意欠陥多動症の特性を指摘され小学4年まで同小児科に通院した。小学5年時より、考えが人に見透かされている感じや盗聴されている感じなどが出現した。成績低下や不登校に加え、不潔恐怖や希死念慮もみられ、中学2年時に当院を受診し、精神病発症リスク状態の基準を満たした。間もなく自生思考や持続性の幻覚妄想が生じ、統合失調症と診断された。精神病症状の顕在化に先立ち測定したmismatch negativity (MMN)では、持続長MMN(duration MMN; dMMN) の振幅低下と周波数MMN (frequency MMN; fMMN)の潜時延長を認めた。各々統合失調症とASDの特徴を表しており、本患者の疾患素因の反映と考えられた。MMNは統合失調症の生物学的マーカーとして早期診断への応用が期待されているが、本症例の結果より、MMNがASD症例における統合失調症の併存リスク評価にも有用である可能性が示唆された。

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© 2021 日本精神保健・予防学会
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