【目的】過剰肋骨はげっ歯類催奇形性試験において胎児に観察される形態学的変化であるが、自然発生性と薬物誘発性の識別は困難であり、リスク評価にその毒性学的意義の解明が求められている。これまでの研究において、我々はアルキル化剤で抗真菌剤であるフルシトシン(5-Flucytosine; 5-FC)の経口投与がSD系ラットで過剰肋骨を誘発させること、その感受性は胚の発生段階に依存し、妊娠9日の7時投与に顕著な臨界期を有することを見出している。本研究では、その機序解明を目的とし、関連性が高いと推察されるホメオボックス因子のHoxa9, Hoxa10の発現を無処置胚のwhole-mount in situ hybridization(WISH)で検討、さらに定量的RT-PCRで投与による発現変動を解析した。
【方法】GD11.5、12.5、13.5のSD系ラット無処置胚について、WISHによりSox9およびHoxa9、Hoxa10の発現部位を解析し、解析時期および切り出し部位を決定した。次に、SDラットの妊娠9日に75 mg/kgの5-FCを単回経口投与、定量的RT-PCR法によりHoxa9,Hoxa10遺伝子の発現変動を検討した。
【結果および考察】Sox9発現より予定肋骨発現部位を定め、Hoxa9の18体節から後方、Hoxa10の25体節から後方の発現を各検討期より確認した。検討期を妊娠13.5日と定め、Controlおよび5-FC投与胎仔を帝王切開により摘出し、過剰肋骨発現部位前後の3 somite分をそれぞれ実体顕微鏡下で切り出し遺伝子発現変動を解析した。Hoxa9, Hoxa10とも腰椎部>胸椎部に発現、特にHoxa10で顕著に差があった。5-FC投与で全体に減少傾向があり、特にHoxa10が胸椎部、腰椎部とも減少していた。Hoxは前後軸統御を行う因子であり、Hoxa10は胸椎と腰椎の境目より前方に出現し、腰椎の胸椎化を抑制する因子である。本研究より、Hoxa10の十分な発現が後方化することで、過剰肋骨が形成されることが示唆された。
本研究は、内閣府食品健康影響評価技術研究(No.1607)の支援を受け実施した。