抄録
前立腺肥大症に対する経尿道的手術のgold standardがTURPであることに異論はなく,またその長期成績も概ね満足できるものであることも認識されているところであると思います.しかしながら,TURPも術中・術後の出血,TUR症候群が問題であり,また特に大きな前立腺の場合にはこれらのリスクも増加することから,より“侵襲性の低い”治療が考案され,その代表的なものが,前立腺組織を熱変成,凝固させることで前立腺の体積を減少させて閉塞を改善しようという方法であり,例えば抗凝固剤などを内服して出血傾向のある場合にも施行可能であるという点が強調されてきました.しかしながら種々考案されたこれらの方法がなかなか確立しなかったという事実は,特にその“長期成績”が課題であったと思われます.
本特集の企画をおうかがいした時点で,次のようなシナリオを考えました.即ち,①TURPが確立してからも登場してきた,特に前立腺組織の熱変成,凝固させることによる,所謂「低侵襲治療」の総括.②実際にgold standardとして確立しているTURPの,長期成績と現在の立場.③前立腺肥大症治療のパラダイムシフトとも呼べると言えるホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)の長期成績.④従来の蒸散の常識(効率が落ちる)を覆した,高出力レーザー(Green light)の登場.さらに,⑤Transurethral enucleation with bipolar system :TUEBを代表とする,経尿道的核出術という“古くて新しい”コンセプトの転換,でありました.そこで,まず①につきましては,数多くの「低侵襲治療」の経験とその報告をされてきた倉敷中央病院の寺井章人先生.②は前立腺肥大症について長年研究され,TURPの長期成績のご報告もされている札幌医科大学の舛森直哉先生.③は本邦に初めてHoLEPの技術を導入された,久留米大学の松岡啓先生.④早くからPVPを導入し,その“長期成績”を経験されている原三信病院の野村博之先生,山口秋人先生.そして,⑤としては,「核出術」のコンセプトに種々の工夫を施されて発信されている恵寿総合病院の川村研二先生にお願いいたしました.
本特集を読んでいただきますと,特に若い先生にも,その歴史と現在までの流れ,さらには今後の展開予測まで胸がすくようにお判りいただけると確信しております.
最後に,このような素晴らしい企画を与えていただきましたこと,また,特に古い症例を掘り起こして改めて調査いただくという大変な作業をお願いした寺井先生はじめ,著者の先生に深謝いたします.