2010 年 13 巻 5 号 p. 668-674
腸間膜静脈血栓症は比較的まれな疾患で,特異的症状を示さないことよりしばしば診断に難渋し,その予後は良好とはいえない。今回われわれは,多血症が原因で発症した門脈,脾静脈,上腸間膜静脈血栓症の1例を経験したので報告する。症例は71歳,男性。半年前に多血症を指摘されるもとくに自覚症状なく放置していた。1週間前より腹部膨満を自覚し,下血と気分不良,血圧低下により当センターヘ搬入された。腹部造影CT検査などの画像検査にて広範な腸間膜静脈血栓症と診断され,直ちにAT製剤と低分子ヘパリンの併用による抗凝固療法を開始したが,検査所見にて血栓症の進行を認め第9病日に死亡確認となった。腸間膜静脈血栓症は,一般的に発症早期からの抗凝固療法が重要であり,来院の遅れが救命し得なかった原因の1つと考えられた。多血症患者に関しては,本疾患を念頭においた注意深い観察が大切であり,また治療に関しては今後も十分な検討が必要である。