抄録
症例は60歳代の女性。自転車走行中に自動車にはねられた。来院時のプライマリーサーベイで異常所見はなかった。全身造影CTを行ったところ左気胸,肝損傷(Ⅰb),左恥坐骨骨折,左脛腓骨骨折を認めたが,腹腔内出血は認めなかった。保存的に加療し,安定した経過をたどっていたが,第9病日に排便後突如収縮期血圧60mmHg台となり血液検査でHb3.8g/dLであった。緊急造影CTを施行し,大量の腹腔内出血を認め緊急手術となった。開腹すると活動性の出血は認めなかったが,横行結腸が粘膜面のみを残して10cmにわたり漿膜が裂け,内腔が拡張している状態であった。受傷時の損傷した漿膜に深部静脈血栓予防の抗凝固療法の影響で血腫を形成し,食事の通過や排便の影響で漿膜断裂,出血に至ったものと考えられた。腹部高エネルギー外傷では遅発性の腹腔内出血を念頭においた管理と経時的観察が重要である。