2023 年 26 巻 2 号 p. 111-117
80歳代の女性。転倒時に破損したガラス片が左後頸部に刺さり受傷し,出血性ショックで当院に救急搬送された。ガラス片はすでに家族が抜去していた。来院時,Zone Ⅲの頸部刺創から活動性出血を認め,椎骨動脈,あるいは外頸動脈分枝の損傷が疑われた。輸液に反応せず,用手圧迫止血でもショックでありCT撮影は断念し,直視下止血術も困難と判断し血管内治療を計画した。血管造影検査で左椎骨動脈V3領域に造影剤血管外漏出を認め,左椎骨動脈母血管塞栓術を施行した。塞栓後,再出血や虚血性合併症は認めず受傷10日目に自宅退院した。椎骨動脈は椎体深部を走行するため鋭的損傷はまれで,その多くは椎骨動脈V2領域に生じるが,本症例は椎骨動脈V3領域に生じた鋭的損傷のため直視下での止血は困難と考えられた。そのため,血管造影で損傷血管の同定ができ,脳血流の観点から塞栓術が可能であれば血管内治療による根治的止血術を行うことも可能である。