2002 年 5 巻 1 号 p. 70-74
屋内での催涙ガススプレー噴射により集団患者が発生した事例を経験したので報告する。被害者は約50名で,そのうち症状の強い8名が事件発生から約30分後に当院に搬入された。症例は男子3例,女子5例,年齢は15~16歳。症状は,眼痛,咽頭痛,咳嗽,嘔気,頭痛,過換気,呼吸困難,顔面紅斑などであり,呼吸性アルカローシス,低酸素血症,自血球増多などの異常値を示す例もあった。事件現場からの通報後,直ちに催涙ガスの成分分析と毒性に関する情報提供を奈良県警察本部科学捜査研究所と日本中毒情報センターに依頼した。ガス成分は1時間後,診療開始30分後にカプサイシンであることが判明した。救急処置は,結膜洗浄,肝庇護薬点滴静注などの対症療法を行うとともに,患者の精神的動揺に対するケアも必要であった。いずれの症例も翌朝には軽快した。集団災害の観点からみた場合,救急医療を行うにあたり関係各機関との連携が重要と考えられた。