2003 年 6 巻 3 号 p. 306-309
腹部刺創による尿管損傷を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は75歳,男性。既往歴にうつ病あり。自殺目的のため上腹部正中および左上腹部を文化包丁で刺し,当院に救急搬入された。来院時ショック状態で創部から大網と腸管の脱出と大量出血を認めたため,緊急開腹術を施行したところ横行結腸,空腸の貫通創と右胃大網動静脈の切断,さらに左尿管の完全断裂を認めた。止血および腸管の吻合を行い,尿管損傷に対しては切断部よりDJカテーテルを挿入留置し,一期的に尿管尿管端々吻合を施行した。術後経過は良好で術後24日目にDJカテーテルを抜去した。腹部刺創においては腹腔内臓器ばかりでなく,後腹膜臓器の損傷も念頭において術中くまなく精査することが望ましい。