2003 年 6 巻 3 号 p. 310-313
馬蹄腎の解剖学的な発生頻度は約0.3%とされるが,それに関する鈍的外傷の報告は少ない。しかし高率に存在する支配血管の異常分布など,治療の際に留意すべき問題点を有する。症例は38歳,女性。自宅階段から転落し受傷。近医を受診し腎損傷を指摘され,当救命救急センターに紹介された。来院時は意識清明,血圧102/80mmHg,脈拍67/分であった。腹部CTの結果,著明な後腹膜血腫を伴う馬蹄腎峡部での損傷が疑われた。血管造影を行ったところ,左総腸骨動脈から峡部への分枝血管よりextravasationを認めた。このため超選択的経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)を行い,良好な経過をたどった。馬蹄腎は通常より低位にあり,峡部が椎体の前面に存在するなどの要因により損傷を受けやすいとされる。また,70%に支配血管の異常分布を認めるとされ,本例でも左総腸骨動脈から峡部への異常血管が存在し,おもな出血源となった。馬蹄腎損傷の際に留意すべき点と思われた。