2004 年 7 巻 1 号 p. 1-10
神経系疾患の救急医療における高気圧酸素(HBO)治療の応用を文献的に調べ,その現状と今後の課題について検討した。この治療はおもに脳血管障害に用いられてきたが,アテローム血栓性梗塞の超急性期では可能性の高い治療手段と判断される。さらに重症頭部外傷,超急性期の無酸素脳症,一酸化炭素中毒や減圧障害に有効性が認められている。そのほかに脳・脊髄の手術後の創感染では,併用によって良好な治療結果が得られている。また,一酸化炭素中毒では大気圧下の酸素吸入療法とHBO治療との,動脈ガス塞栓症では酸素再圧治療との治療効果で比較検討が十分ではない。一方,費用対効果については,重症ないし難治性疾患ではHBO治療が医療費抑制につながるとした報告が多い。神経救急の領域でHBO治療が重要な治療手段に変わりはないが,有効性を確実なものにするには,高い水準の科学的根拠を示す必要がある。