日本臨床救急医学会雑誌
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7 巻, 1 号
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総説
  • 合志 清隆, 溝口 義人, 高村 政志
    原稿種別: 総説
    2004 年 7 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    神経系疾患の救急医療における高気圧酸素(HBO)治療の応用を文献的に調べ,その現状と今後の課題について検討した。この治療はおもに脳血管障害に用いられてきたが,アテローム血栓性梗塞の超急性期では可能性の高い治療手段と判断される。さらに重症頭部外傷,超急性期の無酸素脳症,一酸化炭素中毒や減圧障害に有効性が認められている。そのほかに脳・脊髄の手術後の創感染では,併用によって良好な治療結果が得られている。また,一酸化炭素中毒では大気圧下の酸素吸入療法とHBO治療との,動脈ガス塞栓症では酸素再圧治療との治療効果で比較検討が十分ではない。一方,費用対効果については,重症ないし難治性疾患ではHBO治療が医療費抑制につながるとした報告が多い。神経救急の領域でHBO治療が重要な治療手段に変わりはないが,有効性を確実なものにするには,高い水準の科学的根拠を示す必要がある。

原著
  • 竹下 仁, 堀之内 圭三, 中岡 昇, 朝山 久美子, 大軽 靖彦, 西本 昌義, 筈井 寛, 福本 仁志, 森田 大
    原稿種別: 原著
    2004 年 7 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    H-FABPはAMIの早期診断マーカーとして活用されているが,大動脈血管病変でも陽性を呈することが知られている。しかし,十分な検討は行われていない。大動脈血管病変におけるH-FABPの挙動について,急性大動脈解離および破裂性腹部大動脈瘤患者を対象に,H-FABP,ミオグロビン,トロポニンT,CK-MBの陽性率,濃度分布,ミオグロビン/H-FABP比を指標に検討した。陽性率はH-FABPでA型解離がもっとも高く,破裂性腹部大動脈瘤,B型解離の順であった。ミオグロビンも同様の傾向を示したが,CK-MBは全例陰性であつた。H-FABPの濃度分布はA型解離と破裂性腹部大動脈瘤で著明な上昇を認め,ミオグロビン/H-FABP比はA型解離で低く,他の疾患群はいずれも高値を呈した。H‐FABPの上昇はA型解離では心筋傷害に,B型解離および破裂性腹部大動脈瘤では骨格筋傷害に起因することが示唆された。

  • 篠原 一彰, 松本 昭憲
    原稿種別: 原著
    2004 年 7 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    目的:JPTECでは,状況評価で高エネルギー事故であるものはLoad and Go適応を考慮し,高次病院への搬送を勧めている。しかし,高エネルギー事故でも軽症のことがある。そこで実際の重症度を検討した。対象と方法:昨年1年間に搬送された交通外傷900例中,明らかに「高エネルギー事故」である238例を対象とした。重症度評価にはRTS,AIS-90を用いた。結果:全238例の平均ISSは16.5で,内訳は外来死亡28例,ICU入院26例,その他の病棟入院93例,独歩帰宅91例であった。RTS 7.8以上の症例は74.8%で,AIS 3以上が1部位以上は116例,多発外傷は58例であった。重症度は歩行者・二輪車に比べ,四輪車乗員で有意に低かった。考案と結語:状況評価で「高エネルギー事故」の交通外傷症例の約半数にAIS 3以上の重症外傷が認められ,約1/4が多発外傷であった。傷病者総数が少ない通常の事故では「高エネルギー事故」全例をLoad and Go適応とし,高次病院へ搬送することは許容される。

  • 山田 裕彦, 樋口 浩文, 佐藤 光太郎, 真壁 秀幸, 阿部 基, 今井 聡子, 細谷 優子, 遠藤 重厚
    原稿種別: 原著
    2004 年 7 巻 1 号 p. 22-24
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    かつてわれわれは,熱傷急性期死亡の多くが転送症例であることを報告した。そこで,転送症例の輸液量に関して検討した。対象は1995年1月から2002年11月までの期間に入院した重症熱傷78例とした。直接搬入36例(A群),転送42例(B群)で,両群間において来院までの時間,死亡率,24時間輸液量を,B群においては来院までの輸液量を検討した。来院までの時間はA群が平均85.0分,B群が平均262.0分で,B群で死亡率,急性期死亡率が有意に高かった。24時間輸液量をBaxterの式で除した輸液率は平均140%で両群に差はなかったが,来院までの輸液量をBaxterの式から予想される輸液量で除した輸液率は平均82%と少なく,急性期死亡例でより少なかった。転送症例では,輸液量不足が急性期死亡に関係していることがうかがわれ,時間短縮のためのヘリコプター搬送や急性期輸液療法の啓発,搬送中の輸液などの対処に関して病院間の連携が必要と考えられた。

臨床経験
  • 一1有床診療所における1年間の検討一
    田中 博之, 小玉 敏央, 児玉 隆仁, 金田 奈穂美, 田中 陽子
    原稿種別: 臨床経験
    2004 年 7 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    2002年4月1日より1年間に当院を時間外に受診した265症例について検討した。①軽症例・小児・高齢者が多い,②診療時間終了直後の受診症例が多い,③症状発現後,ただちに受診するとは限らない,④事前に電話連絡する傾向がある,⑤慢性疾患のためのかかりつけがある,などの特徴がみられた。このような患者さんたちが基幹病院を時間外受診すると救急外来は混雑し,結果的により重症な患者さんの診療の遅れを招きかねない。それを防ぐためには基幹病院以外にも気軽に時間外受診できる施設や体制がほしい。しかし,時間外診療や救急外来受診の報告は少なく,主張は難しい。時間外のみならず,すべての医療に関して実態を報告し,医療の供給を需要に合わせるべきである。

  • 福島 英賢, 奥地 一夫, 関 匡彦, 小延 俊文, 畑 倫明, 中村 達也, 松山 武, 村尾 佳則, 吉井 克昌, 和田 利和
    原稿種別: 臨床経験
    2004 年 7 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    救急救命士による特定行為のうち,静脈路確保は器具を用いた気道確保,除細動に比して心拍再開率および予後向上への寄与が少ないとみなされ,施行率は必ずしも高くはなく,十分に検討された報告は少ない。今回われわれは中和広域消防本部の協力下に,プレホスピタルでの救急救命士による静脈路確保を検討した。対象は80例で,このうち45例に滴下良好な静脈路が確保されていた。穿刺部位は前腕,手背がもっとも多く,穿刺回数は2回までがほとんどであった。術者である救急救命士が駆血帯を巻き,穿刺可能な静脈があると判断した場合には高率に確保されていた。今回の検討から,救急救命士は院外心肺停止例の静脈路確保に関し,ある一定の技術を有していると考えられた。救急救命士の救命活動は現在,処置拡大の方向にある。プレホスピタルにおける静脈路確保に関して,救急救命士は十分対応可能と考えられた。

症例報告
  • 千葉 宣孝, 守谷 俊, 櫻井 淳, 雅楽川 聡, 木下 浩作, 林 成之
    原稿種別: 症例報告
    2004 年 7 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    気管挿管下の重症頭部外傷患者に対して,プロポフォール使用中に洞停止を来した症例を経験した。症例は17歳,男性。家屋の2階から転落し,重度の意識障害(JCS Ⅲ-200)のため救命救急センターに搬送された。頭部単純CT検査において,外傷性くも膜下出血と脳室内出血の所見を認めた。来院時心電図では心拍数88/分,洞調律,P-P間隔が0.68秒と異常を認めなかったが,第7病日に脈拍38/分,P‐P間隔不整でP-P間隔が2.86秒と延長した洞停止が出現したため,lCU入室時から脳低温療法実施のため使用していたプロポフォールの持続投与を中止した。投与中止後,徐脈性不整脈を認めることはなかった。集中治療における持続的なプロポフォール使用は,年齢,心電図所見,投与用量にかかわらず徐脈性不整脈が生じる可能性がある。そのため徐脈性不整脈が生じた場合,プロポフォール投与の中止を考慮する必要がある。

  • 安達 普至, 石井 賢造, 金子 高太郎, 須山 豪通, 斉藤 智誉, 森川 真吾, 河野 安宣, 田原 直樹, 右田 貴子, 石原 晋
    原稿種別: 症例報告
    2004 年 7 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    鈍的胸部外傷による肺挫傷は,大量喀血によりときに致死的となる。通常はダブルルーメン気管チューブを用いて左右肺の気道を分離(左右肺分離)することにより,出血側から健側への血液の垂れ込みを防止することで危機を回避できる。また,出血側のルーメンをクランプすることにより,タンポナーデ効果で止血を期待することができる。しかし両側から出血している場合や,肺挫傷が広範に及ぶときは左右肺分離にも限界がある。今回,鈍的胸部外傷による肺挫傷,外傷性仮性肺囊胞から気道内への出血を認めたため,分離肺換気による呼吸管理を施行したが,十分に酸素化を維持できなかったために酸素化補助としてECLA(extracorporeal lung assist)を施行し,出血・塞栓などECLAの合併症を起こすことなく救命できた症例を経験したので報告する。

  • 本田 賢太朗, 山本 修司, 岡村 吉隆, 川崎 貞男, 篠崎 正博
    原稿種別: 症例報告
    2004 年 7 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    腹部大動脈−総腸骨動脈領域における破裂性動脈瘤の静脈穿破による動静脈瘻の3例を経験し,1例を救命したので報告する。症例1は心筋梗塞の診断で経皮的冠動脈形成術を施行したが,循環動態が改善せず,のちの検討で総腸骨動静脈瘻と診断した。その後,手術に至ることなく死亡した。症例2は当院搬送後,ただちに腹部大動脈−下大静脈瘻と診断したが,手術を行う前に死亡した。症例3は当院搬送前に心停止となり,血液ガス,CTから腹部大動脈−下大静脈瘻と診断し,同日緊急手術を行い救命した。診断までに時間を要した1例,術前状態が不良であった1例が死亡し,手術が成功した1例は一時的な蘇生後脳症は来したものの,後遺症なく回復した。本疾患では,可及的早期に手術を行うことが予後に影響するため,迅速な診断が肝要である。

調査・報告
  • 壽田 栄輔, 林 成之, 丹正 勝久, 和泉 徹, 木下 浩作, 守谷 俊, 雅楽川 聡, 白井 邦博, 吉田 省造, 櫻井 淳
    原稿種別: 調査・報告
    2004 年 7 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    東京消防庁では長期間の病院内委託研修生として,1年間にわたり救急救命士を各大学附属病院へ派遣している(以下,院内救急救命士と略す)。日本大学医学部附属板橋病院救命救急センターでは,医師と院内救急救命士が共同し,①医学生に対するbasic life support(以下BLSと略す)の指導,②患者家族を対象とした院内BLSの指導支援,③救急救命士と医師との共同研究を行ってきた。これまで救急救命士と医師とは所属する機関の違いから,相互理解や信頼関係を築き上げることが困難であった。しかし院内救急救命士の派遣により,その実績を院内の多くの医師から認められ,医療機関においてさまざまな活動を生み出してきた。院内救急救命士は,医療・医育機関において医師と共同した教育・研究を行うとともに,医療職として幅広い視野をもつ救急救命士の人材育成にも役立つこととなった。

  • 城 雪子, 高島 シノブ, 高橋 毅
    原稿種別: 調査・報告
    2004 年 7 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2004/02/29
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    当院では平成12年より年1回,熊本市と合同で災害医療訓練を実施し,緊急災害時の受け入れ体制を整えている。平成13年12月1日,市内保育園の餅つき大会で食中毒が発生し,患者346名中園児65名と大人2名の合計67名が当院へ搬入された。土曜日の昼であったため, 日直者および院内にいた医師,看護師,事務職員,そして連絡網やマスコミで情報を知り参集した職員総員50数名で対応した。例年実施される災害医療訓練と今回の食中毒患児の受け入れの実際とを比較してみると訓練と同様,対策本部を設置し一連の行動はとれた。初期段階では,担当部門の日直者がそれぞれ準備を行うことと,戦力となる勤務中の看護師や事務職員の応援体制を整えることが重要である。患児の救急対応は,患児を見守る職員の確保と保護者の対応を整理することで混乱を防止できた。また,日ごろの訓練が重要であると再認識した。

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