2004 年 7 巻 4 号 p. 344-350
背景:健常成人発症のサルモネラ菌感染症は大部分が一過性の胃腸炎を示すのみであり,重篤な基礎疾患がない限り敗血症など重症化を示すことはまれである。今回,われわれは健常成人にもかかわらずサルモネラ腸炎から多臓器不全を示したが,血液浄化などの集中治療により救命し得た1例を経験した。症例:症例は59歳,男性。既往歴は特記事項なし。平成■年■月■日から頻回の下痢が出現した。■月■日に近医を受診し,急性腎不全および下痢を示したため溶血性尿毒症症候群が疑われ同日当センターに紹介された。来院時の血液検査では,肝不全,腎不全,高CK血症,高CRPなどを示した。入院後の下痢便は緑色便であり,便中Vero毒素は陰性であった。入院直後から持続的血液濾過透析および血漿交換を施行した。便培養からサルモネラ菌(S. enteritidis)が検出され,第8病日の血中サルモネラ抗体価は320倍であり陽性を示した(搬入時は40倍未満)。以上から,本症例はサルモネラ菌感染による多臓器不全と考えられた。治療として抗生剤などの薬物治療,および血液浄化(血漿交換2回,持続的血液濾過透析13日間,血液透析2回)を施行した。また,第20病日には成人呼吸促迫症候群を示したが,ステロイドパルス療法が有効であった。第34病日には血液透析から離脱し,第39病日に退院した。結語:サルモネラ菌感染症により多臓器不全,成人呼吸促迫症候群を発症したが,血液浄化療法を中心とした集中治療で救命し得た症例を経験した。