日本食品工学会誌
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原著論文
非対称微細貫通孔を用いたマイクロチャネル乳化によるラージ微小大豆油滴の製造特性
小林 功堀 祐子植村 邦彦中嶋 光敏
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2010 年 11 巻 1 号 p. 37-48

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抄録

連続相となる液体の中に分散しているラージ微小液滴(直径50~1000μm)は,微粒子や微小カプセルを製造するための基材として食品産業,医薬品産業などでよく利用されている.サイズが均一な単分散微粒子・微小カプセルは,細胞・微生物の内包および微粒子・微小カプセルの内部で産出された生理活性物質の徐放に有用な微小キャリアである.前述の微小材料のサイズ分布は基材となるラージ微小液滴のサイズ分布に大いに依存するため,単分散微粒子・微小カプセルを製造するためには均一径ラージ微小液滴を利用することが必要である.
ラージ微小液滴の製造は,多重ノズルを用いて連続相の中に分散相を滴化させて行うのが一般的である.この手法では直径200μm以上の均一径ラージ微小液滴を製造することが可能であるが,各々の液体の流量を精密に制御する必要がある上に,ノズルの並列化も容易ではない.また,回転膜乳化法とよばれる手法を用いて直径100μm程度の均一径ラージ微小液滴を製造することも可能であるがロチャ,この手法で適用可能な素材は高粘性液体に限定される.
筆者らの研究グループは,独特な構造をもつ多数の並列微細流路であるマイクネル(MC)アレイを利用したMC乳化を1990年代後半に提案した.MC乳化では,MCアレイを介して分散相を圧入することで液滴径が精密に制御された均一径微小液滴を製造可能である.MC乳化の液滴作製プロセスは極めてマイルドであり,なおかつ各々の液体の流量の影響も受けにくい.筆者らが最近開発した非対称貫通孔型MCアレイは,均一径微小液滴を安定かつ高生産速度で製造可能な高性能MC乳化チップである.しかしながら,非対称貫通孔型MCアレイを用いて製造可能な微小液滴の直径は50μm未満に限定されている.そこで本研究では,新たに設計した非対称貫通孔型MCアレイを用いた均一径ラージ微小液滴の製造を目的として種々の検討を行った.
単結晶シリコン製の非対称貫通孔型MCアレイは,WMS3チップ(表面サイズ24-mm四方)の中央部(10-mm四方)に加工されている.非対称貫通孔型MCアレイには,マイクロスロット(出口側)と円形マイクロホール(入口側)が連結された均一サイズの非対称貫通孔型MCが集積されている.本研究では,マイクロホールの直径とマイクロスロットの短辺が20~50μmの三種類の非対称貫通孔型MCアレイを用いた.MC乳化実験では分散相として精製大豆油を用い,連続相としてTween20水溶液(1.0 wt%)を用いた.本研究で用いた実験装置は,WMS3チップを搭載したモジュール,シリンジポンプ,顕微鏡観察システムから構成される.液滴作製実験は,非対称貫通孔型MCアレイを介して分散相を連続相領域に圧入させて行った.なお,分散相と連続相の供給流量はそれぞれ1.0~12.0 mL h-1と0~1000 mL h-1の範囲内で制御した.
三種類のWMS3チップを用いて液滴作製を試みた結果,平均液滴径が75.1~178.5μmで変動係数が2%未満の均一径ラージ微小液滴を製造できることが示された.製造されたラージ微小液滴のサイズはMC断面のサイズに依存することがわかった.作製直後のラージ微小液滴はマイクロスロットの出口に一時的に留まり,その後マイクロスロットを通過した分散相に押し出される形で離脱した.この時,ラージ微小液滴と分散相の接触による合一は観察されなかった.
次に,連続相流量(Qc)の影響について検討を行った.連続相の流動状態については,算出したレイノルズ数が最大で27.7であったことより層流であることが示唆された.平均液滴径が100μmより大きくなるWMS3チップの場合では,Qcが臨界値を超えた範囲において液滴径が縮小していくことが明らかとなった.一方,平均液滴径が75μm程度になるWMS3チップの場合では,液滴径は本研究で適用した範囲ではQcに依存せず,液滴径が30μm程度になる既存の貫通孔型MCアレイと同様の傾向を示した.製造されたラージ微小液滴は,Qcが臨界値より低くても問題なく回収できることが確認されており,平均液滴径が100μmより大きい均一径ラージ微小液滴を連続的に製造することは可能であった.マイクロスロットの出口から膨張した分散相液滴の中心部における連続相流速は,Qcが同一の場合では液滴サイズの増大に伴って増加することが示唆された.上述の分散相液滴に作用する力のバランスについて検討したところ,液滴作製に関与する主要な力は液滴作製を促進する連続相流れに起因する抗力(FD)と浮力(FB)ならびに液滴作製(Fγ)を抑制する界面張力であることが示された.また,Qcが臨界値を超えた範囲において液滴径が縮小した結果は,Qcの増大に対して比例的に増大するFDの影響によるものであると考察された.
さらに,分散相流速(Qd)の影響についても検討を行った.Qdが5.0 mL h-1以下の場合では,変動係数が2%未満の均一径ラージ微小油滴(平均液滴径117.6~130.8μm)を製造できた.Qdが臨界値より大きい場合では明確に大きな液滴の作製も観察され,液滴径分布もラージサイズ側が拡がる結果となった.上述の臨界Qd値は50 L m-2 h-1の分散相流束に相当し,微小液滴(直径40μm)の製造に用いられる既存の貫通孔型MCアレイと同等の高い生産能力を有していることが示された.

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© 2010 一般社団法人 日本食品工学会
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