日本食品工学会誌
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物質移動物性としての拡散係数と水分吸脱着(乾燥)
山本 修一
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2010 年 11 巻 2 号 p. 73-83

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抄録

重要な物質移動物性としての拡散係数について乾燥脱水挙動に着目して解説した.はじめに希薄溶液中の拡散係数について,拡散係数の定義や分子量による推算式とともに説明した.次に,ゲル中の拡散係数について,ゲル物性(構造)と拡散係数の関係を述べた.拡散係数からゲルの細孔構造を評価することもできる.
濃厚溶液中の拡散係数についてはショ糖-水系を例として詳細に解説した.拡散係数は水分濃度の減少とともに低下し,とくに過飽和溶液となる水分濃度30%以下で急激に低下する.過飽和領域では拡散係数の活性化エネルギーは希薄溶液の値20 kJ/molから増加する.また,脱着等温線と等量微分吸着熱から,この領域の水は水素結合により強く束縛されていると解釈される.また,濃厚溶液中の拡散係数は流体力学的粘度(マクロ粘度)ではなく,電気伝導度などで測定されるミクロな領域での粘度により支配されている.ゲル化された糖溶液の乾燥速度は,2種類に分けられる.寒天ゲルは,比較的大きな(あるいは疎な)網目構造を形成する.その結果,ゲルそれ自体は水分の移動にほとんど影響せず,糖溶液中の水分拡散が乾燥速度を支配する.一方,ゼラチンゲルでは乾燥直後に緻密な皮膜が表面に形成され,乾燥速度は著しく低下する.この種のゲルでは糖溶液の拡散のみならず表面ポリマー膜内の拡散が乾燥速度を決定する.表面物性と内部水分濃度は乾燥挙動に大きく影響し,みかけ上まったく同じ乾燥曲線となることもあるので注意する必要がある.
糖溶液の乾燥において,初期の恒率乾燥期間終了後に内部拡散支配の減率乾燥となる.揮発成分は恒率乾燥期間に散逸し,熱感受性物質(酵素など)は減率乾燥期間に失活する.どちらについても拡散係数が支配するので,重要な物性値である.

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© 2010 一般社団法人 日本食品工学会
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