日本食品工学会誌
Online ISSN : 1884-5924
Print ISSN : 1345-7942
ISSN-L : 1345-7942
解説
食品ハイドロコロイドの物性に関する研究
熊谷 仁
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 13 巻 4 号 p. 79-90

詳細
抄録
食品ハイドロコロイドの物性は内部の高分子の分散構造の反映である.本稿では,食品ハイドロコロイドの内部構造を解析するために有効な理論であるパーコレーションモデル,誘電解析,フラクタル解析について解説した.また,食品ハイドロコロイドの嚥下困難者用介護食への応用についても述べた.パーコレーション理論は,ゾル-ゲル転移点近傍における食品ハイドロコロイドの物性挙動の記述に有効であった.BSA,ゼラチン,アルギン酸などの溶液について観測される誘電緩和は,ハイドロコロイドごとに異なる電気双極子の運動を反映していた.多糖類などの高分子電解質溶液のMHz近辺で観測される誘電緩和の解析には,スケーリング則が有効であった.ガラス状の試料に関しては低含水率では,分子の運動性,水の可塑剤としての効果が,誘電緩和法によって得られる緩和時間τや活性化エネルギーEactによって定量的に評価できた.高含水率あるいは高温におけるガラス転移点近傍あるいはラバー領域においては,電気弾性率M*を用いた解析が有効だった.フラクタル解析により,複雑な形状の物体の構造を特徴づけることができた.希薄溶液系においては,タンパク質表面荷電量を制御することにより,クラスター-クラスター凝集モデルの典型例である拡散律速型および反応律速型の凝集体が生じた.球状タンパク質の加熱凝集ゲルの弾性率の挙動は,内部の凝集体のフラクタル構造の反映であった.食品ハイドロコロイドの物性が,超音波パルスドプラー法で測定される食塊の咽頭部流速に及ぼす影響に関して検討を行った.その結果,粘度μ,動的粘性率η’,複素粘性率が,液状の嚥下困難者用介護食の物性指標として有効であると考えられた.
著者関連情報
© 2012 一般社団法人 日本食品工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top