日本食品工学会誌
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原著論文
植物工場におけるレタスの過冷却保存に関する基礎的研究
NGUYEN QUANG Thinh岩村 幸治SHRESTHA Rajesh杉村 延広
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2017 年 18 巻 1 号 p. 25-32

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抄録

野菜などの農産物は,収穫後も呼吸などの生命活動が続いているため糖度やタンパク質が消費される.このような農産物の長期保存を実現するためには,収穫直後に適切な冷蔵設備および保存条件を利用することが重要である.野菜などの生鮮食品のロスは,収穫,貯蔵,加工,包装,輸送,販売,消費までを含む全体プロセスで,生産量の25~30%であると推計されている.このロスを削減するには,長期保存システムの確立が求められる.

大阪府立大学の植物工場は毎日5,000株のレタスを出荷することができるが,通常の冷蔵庫を利用しているため,1週間程度しか保存できない.このため,需要の動向に柔軟に対応するには収穫された野菜を長期的に保存できるシステムが求められている.

過冷却現象(Supercooling)は,物質の相変化が生じる温度以下でもその状態が変化しない現象である.過冷却は,Supercooled,Undercooling,Subcooledあるいは氷温とよばれている.これまでの研究では,露地栽培野菜を含む複数の食品の保存期間を延ばすことができることを示している.

本研究では,安定した条件で栽培される植物工場のレタスについて,過冷却保存で重要となる凝固温度および過冷却温度領域を実験的に求めた.

過冷却保存では,冷却速度および冷気の流れによりレタスが凍結することがあるため,適切な冷却速度および包装方法が必要となる.そのため,植物工場のレタスを3つの包装方法(包装なし,1重包装,2重包装)で冷却実験を行い,冷却速度およびそのレタスの凍結状況の観点から,2重包装が有効であることを示した.

過冷却プロセスの有効性を検証するために,2重包装で一般の冷蔵保存および過冷却保存を3週間で実施し,1週間ごとにレタスの重量および糖度を測定した.また,保存前と3週間後の生菌数を測定した.その結果,過冷却状態で保存されたレタスは重量減少率が低く,糖度がほぼ減少していないことを示した.

また,一般の冷蔵保存で保存されたレタスは,生菌数が103.4[CFU/g]から106.2[CFU/g] に増加し,英国の食品安全基準を超えたのに対し,過冷却保存で保存されたレタスの生菌数の増加は,105.1[CFU/g]にとどまった.これにより,過冷却保存は,レタスの生命活動および生菌の増殖を抑制することで,植物工場で生産された高品質なレタスを長期的に保存することができることを示した.

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© 2017 一般社団法人 日本食品工学会
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