日本食品工学会誌
Online ISSN : 1884-5924
Print ISSN : 1345-7942
ISSN-L : 1345-7942
原著論文
亜臨界水条件下での処理によるイサダ処理残渣液からの風味原料の調製
堀江 茜音小林 敬安達 修二
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 19 巻 2 号 p. 113-118

詳細
抄録

イサダ(学名ツノナシオキアミ,別名アミエビ)は,三陸沿岸で早春に漁獲される小型のアミで,資源量は豊富である[2,3].水揚げ直後のイサダは鮮やかな桜色であるが,強い酵素活性により,数時間で黒色し,異臭を生じる[4].地元では,水揚げ後すぐに蒸煮し,乾燥した半乾燥イサダが食用として販売されているが,大半は養殖魚の餌やつり餌(撒き餌)としての利用に留まっている.しかし,イサダはドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA),アスタキサンチンなどの機能性脂質を含有する[5].さらに,EPAの8位が水酸化された8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)という強力な抗肥満成分を含有することが見出された[7].イサダからこれらの脂質を取り出し,機能性食品素材として利用する試みが行われている.その工程では,廃棄物として水溶性残渣が生成する.

常圧では水は100℃で沸騰し気体(水蒸気)になるが,高山ではそれより低い温度で気化する.一方,圧力鍋の中や深海の底では,沸点は100℃より高くなる.すなわち,沸点は圧力に依存し,圧力が高いと水は374℃(臨界温度)まで液体状態を保つ.このように,常圧での沸点である100℃から臨界温度の範囲で,加圧することにより液体状態を保った水を亜臨界水または加圧熱水という.常温常圧の水に比べて,比誘電率が低く,イオン積が大きいという2つの特徴がある[8,9].前者の特徴から,亜臨界水は常温の水には溶け難いものを溶解することができる.また,後者の特徴から,亜臨界水は水素イオンと水酸化物イオンの濃度が高く,種々の反応を促進する.このような性質を利用し,未利用資源や廃棄物から有用なものをつくろうとする研究が活発に行われている[10‒12].筆者らは水が亜臨界状態となる条件でイサダを処理すると,生臭さが消え,エビ風味が増強されることを見出した[13‒15].

本論文では,イサダから機能性脂質を取り出したあとの水溶性残渣を廃棄することなく,120~200℃の範囲で,水が亜臨界状態を保つ条件下で水溶性残渣を処理し,エビ風味を呈する調味液に効率的に変換する生産する条件について検討した.

水溶性残渣は黄色を呈している.120℃での処理では色調は変化しなかったが,処理温度が高くなると処理液は褐色になり,高温ほど色調が強くなった(Fig. 1).亜臨界条件下での処理により(Fig. 2),固形物濃度がわずかに低下し,揮発性物質の生成を示唆した.また,処理温度が高いほど処理液のpHが高くなり,塩基性物質の生成を示唆した.さらに,処理温度の上昇に伴い処理液が示す抗酸化活性が上昇した.これはMaillard反応やカラメル化に起因すると思われる.水溶性残渣を処理する温度が処理液の臭気特性(エビ臭,香ばしさ,生臭さ,腐敗臭および焦げ臭)に及ぼす影響を20名のボランティアにより官能評価した(Fig. 3).140~180℃で処理すると,生臭さ,腐敗臭,焦げ臭という不快な特性が低下し,逆に好ましいエビ風味や香ばしさが強くなった.しかし,さらに高温の200℃では不快臭が強くなった.これらのことより,160~180℃での処理がもっとも好ましことが示された.

エビ風味を呈する成分を特定するため香気成分のヘッドスペースGC-MS分析を行った(Fig. 4).未処理の水溶性残渣を含め,すべての液のヘッドスペースはトリメチルアミンを含んでいた.しかし,亜臨界条件下で処理した液では,それ以外にははっきりとした不快な成分のピークは認められなかった.140~200℃で処理した液からはピラジンやピリジン類が認められた(Table 1).とくに,エビ風味に関連する2-メチルピラジン,2,5-ジメチルピラジン,2,6-ジメチルピラジン,2,3,5-トリメチルピラジンといったピラジン類の強いピークが認められた.

著者関連情報
© 2018 一般社団法人 日本食品工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top