日本食品工学会誌
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技術論文
イサダからの水溶性残渣液の亜臨界条件下での処理によるエビ風味をもつ調味料の調製
安達 修二宮川 弥生吉井 英文
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2019 年 20 巻 3 号 p. 123-128

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抄録

イサダ(学名ツノナシオキアミ,別名アミエビ)は早春に三陸沿岸で漁獲される,資源量が豊富な小型のアミ類である[1,2].イサダは内在性の強い酵素活性をもつため,漁獲後短時間で品質が低下する[1,3].したがって,食品への利用は限られており,大半は釣りの撒き餌や養殖魚の餌として利用されている[3].一方,イサダはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸に加え,脂肪燃焼効果をもつ8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸を多く含有する[5]ため,脂溶性成分はサプリメントなどへの利用が期待されている.これらの有効成分を回収する工程では大量の水溶性残渣液が排出されるが,現状では用途がなく,廃棄されている.

常圧での沸点である100℃から臨界温度の374℃の範囲で液体状態を保った水を亜臨界水という.著者らは,イサダ[8-12]やその煮汁[13]を亜臨界水の条件下で処理すると生臭さが大きく低減し,エビ風味を発現することを見出した.

そこで,煮汁と同様に,イサダから脂溶性の有効成分を回収する際に排出される水溶性残渣液についても,亜臨界条件下で処理すると,エビ風味の調味液が調製できると期待される.また,その調味液に賦形剤を添加し,噴霧乾燥すると,エビ風味をもつ調味粉末が得られる.

そこで,2017年および2018年に漁獲されたイサダから脂溶性の有用成分を回収したあとの水溶性残渣液を種々の温度(120~200℃)で処理し,処理液の特性を評価した.とくに,調味料としての利用を想定しているため,処理液の嗜好性およびエビ風味,香ばしさ,焦げ臭,腐敗臭と生臭さの強度について官能評価を実施した.なお,回分操作では時間とともに温度が変化する昇温過程の影響が大きいと思われるため,温度と時間の効果をseverity factor(式(1))という1つの指標で評価した.

160℃以上の処理温度では,不溶物の生成が多くなり,可溶物の濃度が低下した.また,処理液のpHも上昇した(Fig. 2).

イサダの組成は漁獲年,漁獲時期,漁場などに依存する.また,水溶性残渣液の色調も漁獲年などに依存し,亜臨界条件下での処理後の色調も異なっていた(Fig. 3).しかし,いずれの漁獲年の水溶性残渣液も亜臨界条件下で処理すると,生臭さが低減し,香ばしさと焦げ臭が強くなった(Fig. 5).2017年度の水溶性残渣液は亜臨界条件下での処理により嗜好性が向上した.一方,2018年度の水溶性残渣液については,処理による嗜好性の向上が認められなかった(Fig. 4).匂いは濃度によって特性が異なることが考えられるため,2017年度および2018年度の水溶性残渣液を140℃で処理したのち,2n倍(n=0~5)に希釈し,官能評価を行ったところ,2018年度の試料は,2倍または4倍に希釈するとエビ風味は低下しないが,生臭さが軽減されるため,嗜好性が向上した(Fig. 6).

エビ風味はピリジン類やピラジン類に由来するといわれる.そこで,GC-MSによるベッドスペース分析を行ったところ,水溶性残渣液にはこれらに相当するピークは認められなかったが,2017年度および2018年度の水溶性残渣液を140,160および180℃で処理した液はいずれもピリジン類やピラジン類に由来するピークが出現した.

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© 2019 一般社団法人 日本食品工学会
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