日本食品工学会誌
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技術論文
イサダからの水溶性残渣液の凍結融解法による濃縮
安達 修二宮川 弥生吉井 英文
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2019 年 20 巻 3 号 p. 115-119

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抄録

イサダ(学名ツノナシオキアミ,別名アミエビ)は2月~4月頃に三陸沿岸で漁獲される小型のアミ類で資源量は豊富である.しかし,内在性酵素により漁獲後短時間で品質が低下するため,食品への利用は限定的で,大半は釣りの撒き餌や養殖魚の餌として利用されている.一方,イサダはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの機能性脂質に加え,脂肪燃焼効果をもつ8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸を多く含有する[5]ため,その脂溶性成分はサプリメントなどへの利用が期待されている.イサダから脂溶性の有効成分を回収する工程では大量の水溶性残渣液が排出されるが,現状では用途がなく,廃棄されている.

常圧での沸点である100℃から臨界温度の374℃の範囲で液体を保った水を亜臨界水という.著者らは,イサダを亜臨界水の条件下で処理すると生臭さが大きく低減し,エビ風味を発現することを見出した.また,イサダの煮汁についても同様の結果を得ている[8].

そこで,イサダから脂溶性の有効成分を回収する際に排出される水溶性残渣液を亜臨界条件下で処理し,エビ風味の調味液または調味粉末を調製する研究を進めている.しかし,水溶性残渣液の固形物濃度は,イサダの漁獲期や脂溶性成分の回収方法などにより,Brix値で5~15%と大きく変動する.また,亜臨界条件下での処理を効率的に行うには,固形物濃度を高める必要がある.

そこで,濃縮過程での品質低下の少ない凍結濃縮法の中でも,特別な装置が必要なく,また操作も簡単な凍結融解法による水溶性残渣液の濃縮について検討した.

水溶性残渣液を−20℃または−80℃で大きさの異なる球形または直方体状に完全に凍結したのち,室温(26±2℃)で融解し,融解過程における融解率と融解液の固形分濃度の変化を測定した.凍結温度,凍結物の形状や大きさに関わらず,融解率の経時変化は,現象論的ではあるが,誤差関数により表現できた(Fig. 1およびFig. 2).凍結物の半分量が融解する時間および融解曲線の広がり(すなわち,融解速度)を反映するパラメータはいずれも,凍結物の初期比表面積が大きいほど小さくなる傾向が認められた(Fig. 3).

凍結温度は融解過程に大きな影響は及ぼさなかった.すべての凍結物について,融解率と濃縮度の関係はほぼ1本の直線で表され,凍結物の半分量が融解したときの融解液は,原液の固形分濃度の約1.4倍であった(Fig. 4).

そこで,凍結物の半分量を融解し,融解液を再び凍結して半量を融解する操作を繰り返せば,どこまで濃縮できるかについて検討した.このような凍結融解操作を2回繰り返すと原液の2倍に濃縮できることが示されたが,それ以上凍結融解を繰り返しても濃度を高めることはできなかった(Fig. 5).また,半分量を融解する操作を2回繰り返することにより,約2倍に濃縮した液を得た際の残液の固形物濃度は原液のそれとほぼ同じであるので,原液に混合して再利用することにより,濃縮過程での廃液を大幅に低減できることが示唆された.

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© 2019 一般社団法人 日本食品工学会
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