日本食品工学会誌
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20 巻, 3 号
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解説
  • 山本 修一
    2019 年 20 巻 3 号 p. 81-97
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    複雑な食品プロセスをメカニスティックモデルにより厳密に解析しても,実用的には適用することは難しいが,それらの解析から導かれる簡単化したモデルは,ロセスの理解・開発・設計のみならず運転にも有用である.また,安定した製品の製造や製造時のトラブル解決にも役立つ.ここでは液状食品乾燥とタンパク質や食品成分のクロマトグラフィーという2つの拡散支配のプロセスについて簡単化したモデルによる解析を紹介している.

    液状食品乾燥における水分濃度に依存した拡散係数の等温乾燥速度からの決定方法について説明している.次にモデルから得られる無次元数などに基づき,乾燥挙動および乾燥時の酵素失活に影響を与える因子について考察している.

    クロマトグラフィープロセスについては,直線勾配溶出(LGE)法のHETPの決定方法について解説し,LGEの分離特性を相関できる有用な無次元数(Ym)について説明している.次に,有用な概念である等分離度曲線と,その生産性推算への適用を紹介している.また,大量に目的物質を吸着分離するキャプチャークロマトグラフィーにおける動的吸着量を推算するのに便利な無次元数を導き,実験値と比較し議論している.

技術論文
  • Joao CARDOSO, 吉本 則子, 山本 修一
    2019 年 20 巻 3 号 p. 99-105
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    クロマトグラフィー分離の温度依存性を解析することは,分離の最適化のみならず新規分離剤や分離プロセスの開発に関連して重要である.等組成溶出クロマトグラフィーピークの保持容量から得られる分配係数Kを利用したvan’t Hoffプロットと等量滴定熱量計(ITC)によりクロマトグラフィー分離の温度依存性を解析する方法を検討した.モデル分離系は2種類のポリフェノールのエタノール水混合溶液移動相によるポリマー充填剤クロマトグラフィーである.ITC測定における分配係数の算出方法を提案した.ここで使用したモデル系においてどちらの方法から得られたエンタルピーは,ほぼ一致した.また,それぞれの方法固有の問題点と誤差の原因についても論じた.これらをよく理解して相補的な方法として使用することが望ましい.

  • 小林 敬
    2019 年 20 巻 3 号 p. 107-113
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    シングルボードコンピュータをWebサーバとして利用して,HPLC機器からのアナログ出力をデジタル化し,ローカルエリアネットワークを通じて配信した.ココナッツ油のHPLC分析結果について,クライアントコンピュータ(PC)で出力内容を記録し,グラフ化した.2台のサーバからの出力を,1台のPCを用いて同時に,リアルタイムに取りこぼしなく処理できた.このシステムを遠隔地における温湿度の記録にも適用した.低速回線を用いたインターネットを通じてデータを取得したが,取得間隔を長く設定することで,3ヶ月間にわたり取りこぼしなく温湿度を記録できた.

  • 安達 修二, 宮川 弥生, 吉井 英文
    2019 年 20 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    イサダ(学名ツノナシオキアミ,別名アミエビ)は2月~4月頃に三陸沿岸で漁獲される小型のアミ類で資源量は豊富である.しかし,内在性酵素により漁獲後短時間で品質が低下するため,食品への利用は限定的で,大半は釣りの撒き餌や養殖魚の餌として利用されている.一方,イサダはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの機能性脂質に加え,脂肪燃焼効果をもつ8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸を多く含有する[5]ため,その脂溶性成分はサプリメントなどへの利用が期待されている.イサダから脂溶性の有効成分を回収する工程では大量の水溶性残渣液が排出されるが,現状では用途がなく,廃棄されている.

    常圧での沸点である100℃から臨界温度の374℃の範囲で液体を保った水を亜臨界水という.著者らは,イサダを亜臨界水の条件下で処理すると生臭さが大きく低減し,エビ風味を発現することを見出した.また,イサダの煮汁についても同様の結果を得ている[8].

    そこで,イサダから脂溶性の有効成分を回収する際に排出される水溶性残渣液を亜臨界条件下で処理し,エビ風味の調味液または調味粉末を調製する研究を進めている.しかし,水溶性残渣液の固形物濃度は,イサダの漁獲期や脂溶性成分の回収方法などにより,Brix値で5~15%と大きく変動する.また,亜臨界条件下での処理を効率的に行うには,固形物濃度を高める必要がある.

    そこで,濃縮過程での品質低下の少ない凍結濃縮法の中でも,特別な装置が必要なく,また操作も簡単な凍結融解法による水溶性残渣液の濃縮について検討した.

    水溶性残渣液を−20℃または−80℃で大きさの異なる球形または直方体状に完全に凍結したのち,室温(26±2℃)で融解し,融解過程における融解率と融解液の固形分濃度の変化を測定した.凍結温度,凍結物の形状や大きさに関わらず,融解率の経時変化は,現象論的ではあるが,誤差関数により表現できた(Fig. 1およびFig. 2).凍結物の半分量が融解する時間および融解曲線の広がり(すなわち,融解速度)を反映するパラメータはいずれも,凍結物の初期比表面積が大きいほど小さくなる傾向が認められた(Fig. 3).

    凍結温度は融解過程に大きな影響は及ぼさなかった.すべての凍結物について,融解率と濃縮度の関係はほぼ1本の直線で表され,凍結物の半分量が融解したときの融解液は,原液の固形分濃度の約1.4倍であった(Fig. 4).

    そこで,凍結物の半分量を融解し,融解液を再び凍結して半量を融解する操作を繰り返せば,どこまで濃縮できるかについて検討した.このような凍結融解操作を2回繰り返すと原液の2倍に濃縮できることが示されたが,それ以上凍結融解を繰り返しても濃度を高めることはできなかった(Fig. 5).また,半分量を融解する操作を2回繰り返することにより,約2倍に濃縮した液を得た際の残液の固形物濃度は原液のそれとほぼ同じであるので,原液に混合して再利用することにより,濃縮過程での廃液を大幅に低減できることが示唆された.

  • 安達 修二, 宮川 弥生, 吉井 英文
    2019 年 20 巻 3 号 p. 123-128
    発行日: 2019/09/15
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    イサダ(学名ツノナシオキアミ,別名アミエビ)は早春に三陸沿岸で漁獲される,資源量が豊富な小型のアミ類である[1,2].イサダは内在性の強い酵素活性をもつため,漁獲後短時間で品質が低下する[1,3].したがって,食品への利用は限られており,大半は釣りの撒き餌や養殖魚の餌として利用されている[3].一方,イサダはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸に加え,脂肪燃焼効果をもつ8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸を多く含有する[5]ため,脂溶性成分はサプリメントなどへの利用が期待されている.これらの有効成分を回収する工程では大量の水溶性残渣液が排出されるが,現状では用途がなく,廃棄されている.

    常圧での沸点である100℃から臨界温度の374℃の範囲で液体状態を保った水を亜臨界水という.著者らは,イサダ[8-12]やその煮汁[13]を亜臨界水の条件下で処理すると生臭さが大きく低減し,エビ風味を発現することを見出した.

    そこで,煮汁と同様に,イサダから脂溶性の有効成分を回収する際に排出される水溶性残渣液についても,亜臨界条件下で処理すると,エビ風味の調味液が調製できると期待される.また,その調味液に賦形剤を添加し,噴霧乾燥すると,エビ風味をもつ調味粉末が得られる.

    そこで,2017年および2018年に漁獲されたイサダから脂溶性の有用成分を回収したあとの水溶性残渣液を種々の温度(120~200℃)で処理し,処理液の特性を評価した.とくに,調味料としての利用を想定しているため,処理液の嗜好性およびエビ風味,香ばしさ,焦げ臭,腐敗臭と生臭さの強度について官能評価を実施した.なお,回分操作では時間とともに温度が変化する昇温過程の影響が大きいと思われるため,温度と時間の効果をseverity factor(式(1))という1つの指標で評価した.

    160℃以上の処理温度では,不溶物の生成が多くなり,可溶物の濃度が低下した.また,処理液のpHも上昇した(Fig. 2).

    イサダの組成は漁獲年,漁獲時期,漁場などに依存する.また,水溶性残渣液の色調も漁獲年などに依存し,亜臨界条件下での処理後の色調も異なっていた(Fig. 3).しかし,いずれの漁獲年の水溶性残渣液も亜臨界条件下で処理すると,生臭さが低減し,香ばしさと焦げ臭が強くなった(Fig. 5).2017年度の水溶性残渣液は亜臨界条件下での処理により嗜好性が向上した.一方,2018年度の水溶性残渣液については,処理による嗜好性の向上が認められなかった(Fig. 4).匂いは濃度によって特性が異なることが考えられるため,2017年度および2018年度の水溶性残渣液を140℃で処理したのち,2n倍(n=0~5)に希釈し,官能評価を行ったところ,2018年度の試料は,2倍または4倍に希釈するとエビ風味は低下しないが,生臭さが軽減されるため,嗜好性が向上した(Fig. 6).

    エビ風味はピリジン類やピラジン類に由来するといわれる.そこで,GC-MSによるベッドスペース分析を行ったところ,水溶性残渣液にはこれらに相当するピークは認められなかったが,2017年度および2018年度の水溶性残渣液を140,160および180℃で処理した液はいずれもピリジン類やピラジン類に由来するピークが出現した.

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