食品の製造において求められる,安全性と品質の両方を担保した加熱条件を提示する方法の1つにシミュレーション手法が挙げられる.本稿では畜肉を対象とし,熱移動・物質移動のみならず,タンパク質熱変性,旨味成分の酵素分解など,速度論的な解析を融合させた調理シミュレーションについて解説した.真空調理法に基づき調理したローストビーフを対象とし,調理シミュレーションを利用した結果,以下の結果が明らかとなった.(1)アクチンの変性が終了していないため,肉がやわらかく仕上がる,(2)グルタミン酸とイノシン酸は,調理過程において試料内部に形成される分布が異なる,(3)真空調理法は呈味成分の流出を抑制した方法である,(4)肉内部の殺菌効果は低いため,新鮮な食材の選定や肉内部で菌が増殖しないよう,徹底した衛生管理が必要である.