抄録
日本農業に大きな影響を与える自由貿易協定 (FTA) の理論および実務の動向を解説した.
1990年代半ば以降, WTOにおける多角交渉の行き詰まりを背景に, 世界中でFTAの締結が増加している.日本も, 世界のFTAの増加, とくにヨーロッパ連合 (EU) および北米自由貿易協定 (NAFTA) に対抗すべく.最近にいたり, WTO中心主義の政策を変え, アジア諸国とのFTA交渉を積極的に進めている.FTAにおける自由化の例外品目の大半は農産物である.とくに日本では, 農業の国際競争力が弱いため, FTA締結の最大の課題は農産物の扱いである.最近のFTA締結交渉における農産物に関する議論の論点を整理し, 比較優位論, 市場経済主義を背景とする「工業の論理」と, 農業の多面的機能, 食料安全保障, 自然条件の制約など農業の特殊性を主張する「農業の論理」の対立があることを示した.