抄録
1. 1981年6月から8月にかけて蓄養中のアワビにへい死を伴う疾病が発生したためその原因を調査した結果,罹病アワビの外套膜,上足および足背部などの表面に形成される膨隆患部内には常に菌糸体が観察されたことから本症を真菌性疾病と判断した。2. アワビ肉質部抽出液で作製したAMES寒天培地を用い,病患部から真菌の分離を試みた結果,寄生菌と同一形状を有する真菌の培養に成功した。3. 分離菌(NAA8101株)は全実性の組織内寄生菌で,遊走子がfragment内に形成され,それが放出管の先端より遊出し,また休眠胞子の径が通常7μmであったことなどから,クサリフクロカビ目,シロルピディア科のHaliphthoros milfordensisに同定された。4. NAA8101株は4.9℃~26.5℃の温度範囲内で発育したが,発育適温域は11.9℃~24.2℃,最適温度は20.1℃と判断された。