抄録
【背景】Lynch 症候群はミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞変異を原因とし,大腸癌,子宮体癌,胃癌などを好発する.【症例】62 歳,男.【家族歴】母: 78 歳で胆管癌,弟A : 34 歳で直腸癌,58 歳で胃癌,結腸癌.弟B : 38 歳で胃癌.【既往歴】54 歳:胃癌にて噴門側胃切除(tub2,pT2N0M0).【現病歴】胃癌の手術後8 年目に行った上部消化管内視鏡のサーベイランスにて,残胃に胃癌を指摘された.【経過】残胃全摘術を施行した.切除した残胃には,術前指摘された20mm 大の0-Ⅰ病変以外に,肉眼的に指摘困難な平坦型癌病変が2 か所,病理検査により確認された.術後経過良好にて退院となった.【考察】Lynch 症候群においては,同時性・異時性多発胃癌のリスクが比較的高いことから,多発胃癌を考慮したサーベイランス,十分な術前の評価が必要と考えられた.また,同時性・異時性多発胃癌への対策として胃全摘術も術式の選択肢になると考えられた.