抄録
生態系の複雑化を想定した水田において,イネの共存作物として選んだ水面被覆植物の栽植密度を変化させた際の作物の応答を調べた.共存系の作物モデルにはホテイアオイ(Eichhornia crassipes)を供試した.イネの密度を22.2株/m2に統一し,ホテイアオイの密度を22.2,16.7,11.1,5.6,0株/m2とした区に加え,ホテイアオイのみを11.1株/m2で栽植した区の計6区を3反復の乱塊法で設けた.ホテイアオイ密度の増加に対してイネの生育量は減少したが,ホテイアオイの草高は増加した.また吸光係数が増加したことから,両作物間に光競合が生じたと考えられた.さらに,イネのLAIが減少したことで養分競合も生じたと考えられた.ホテイアオイ密度の増加に対して,m2当たり穂数や一穂頴花数が減少し,玄米収量は減少した.ホテイアオイ密度の増加に対して籾収量は減少したが,共存系全体のC・N固定量はホテイアオイの補償作用で増加した.イネの収量減少をある程度覚悟すると,水田生態系における環境保全効果を念頭に置いた新たな展開場面を考えていくことが可能となり,本研究ではそのために必要な知見の一部を得ることができた.