抄録
静脈内鎮静法を高齢者に適用する際には, 循環動態の変化および呼吸抑制に注意が必要とされている。そこで, 当科で管理した静脈内鎮静法症例2,020例を対象に, 年齢別に4群 (60~74歳, 45~59歳, 30~44歳, 15~29歳) に区分し, 血圧, 心拍数および経皮的酸素飽和度 (SpO2) の変化を比較検討した。その結果, 1.60~74歳群では至適鎮静に必要な薬剤の投与量は少なかった。2.60~74歳群では全経過を通じて血圧は高く推移していた。また管理中の血圧が20%以上低下した症例数の比率が多かった。3.60~74歳群のみ, 鎮静法導入後および局所麻酔後も心拍数の変化に有意差がなかった。4.60~74歳群ではSpO2は低く推移していた。また, SpO2 93%以下を記録した症例数の比率は高く, SpO2の最低値は術後酸素投与を停止した後に記録する症例が最も多かった。
以上のことから, 高齢者では, 鎮静に用いる薬剤の投与量が少なくても至適鎮静が得られるため, 過剰鎮静にならないように投与方法や投与量に注意が必要である。また, 他の年齢群よりも術中に血圧は低下しやすいことから, 連続した鎮静度の観察と循環動態の監視が必要である。さらに, 術後にわたって低酸素血症の可能性がより高く, 術後もしばらく酸素投与を継続したほうがよいと考えられた。