老年歯科医学
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臨床報告
舌接触補助床を下顎区域切除後症例に適用した1 例
―顎欠損部を補塡する形態を付与する試み―
横山 薫原田 由香山川 道代古屋 七重山下 まどか湯浅 研野末 真司高橋 浩二
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2013 年 27 巻 4 号 p. 392-399

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抄録
舌接触補助床(Palatal Augmentation Prosthesis:PAP)は,舌の実質欠損や舌運動障害をもつ患者に対し,嚥下・構音機能を補助するために適用される装置である。 その効果については従来から多くの報告があるが,硬組織である下顎区域切除後症例に対する PAP の効果については明らかではない。 今回われわれは,放射線性骨壊死で下顎区域切除後に舌の運動障害と口唇閉鎖不全を生じ,嚥下・構音機能障害を来たした症例(56 歳,男性)に対し,顎欠損部の補塡と口唇閉鎖のための形態を付与した PAP を適用して良好な結果を得たので報告をする。 発語明瞭度検査,会話明瞭度検査にて構音機能を評価したところ,どちらも PAP 装着により改善が認められた。また,舌の口蓋への接触様式についてスタティックパラトグラムにて評価したところ,PAP 非装着時に認められた舌口蓋接触様式の異常が PAP 装着により正常な接触様式に近づいた。また,舌突出嚥下も PAP 装着により正常な嚥下様式となった。 嚥下機能については嚥下造影検査,舌圧測定により評価した。その結果,PAP 装着により誤嚥は消失し,嚥下後の口腔残留・嚥下回数の減少,口腔通過時間および咽頭通過時間の短縮,ならびに舌圧の上昇が確認された。 以上の結果から,PAP に顎欠損部の補塡と口唇閉鎖のための形態を付与することで,舌尖部のアンカー機能と側方部の舌圧産生機能が改善したと考えられ,嚥下・発音機能の双方において硬組織欠損症例に対する本装置の有用性が示された。
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© 2013 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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