この研究の目的は,脊柱彎曲症患者に対応できる新しいデンタルチェアーを開発することにある。最初に65歳以上の高齢者50人とコントロールとしての20歳代の若年者30人を対象として,身体計測を行った。計測には,座位で着衣のまま計測できる自家製の背面形状計測装置を使用した。得られた頭部を含む背面形状から,脊柱および首の彎曲を計測した。脊柱の最突出部の頂点から,首の最深部および腰の彎曲の変曲点に引いた線でできる角度を,脊柱の彎曲を示す角度θとして求めた。さらに,首の彎曲の計測には,首の最深部を基準にして頭および肩に対する接線を引き,両方の接線でできる角度を角度αとして求めた。また,頭の位置を,脊柱の最突出部を基準として,垂直面からの水平距離として計測した。その結果,角度θおよび角度αともに,高齢者においては若年者より小さく,統計学的に有意の差(t-test, p<0.01)がみられた。また,頭の位置は,高齢者では,若年者に比較して有意(t-test, p<0.01)に前方にあることが判明した。これらの結果は,チェアーの背板が 1 枚ではなく,2 枚あるいはそれ以上が必要なことを示唆していた。 そこで,これらの計測結果をもとにデンタルチェアーの背板と安頭台を開発した。背板はメインの背板とサブ背板の 2 枚からなり,サブ背板がメイン背板の中に組み込まれた形状にした。サブ背板はメイン背板から独立して上下,前後移動ができるが,初期状態ではメイン背板の中にサブ背板が収まっている。このサブ背板の上下移動およびリクライニング機構により,脊柱彎曲症患者の背中の彎曲にフィットできる。しかも,サブ背板はメイン背板と一緒に連動して,上下移動およびリクライニングもできる機構にした。安頭台はサブ背板と連動して可動できるようにした。
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