老年歯科医学
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臨床報告
前頭側頭型認知症患者の歯科治療に亜酸化窒素を用いて行動調整した1症例
大内 謙太郎
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2017 年 32 巻 2 号 p. 96-101

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抄録

 前頭側頭型認知症(FTD)を有する患者に対して,亜酸化窒素吸入鎮静法にクラシック音楽の聴取を併用することにより,歯科処置を終了しえた症例を経験したので報告する。

 患者は67歳,男性。義歯修理が予定されたが,連続する顎タッピングのために通常の治療は困難と判断され,全身疾患を有する患者の全身管理を専門とする全身管理歯科治療部へ紹介となった。既往歴として3年前にFTDと診断され,神経科精神科で外来加療中であった。

 全身管理を担当する歯科麻酔科医が口腔内を診察したところ,患者は口腔内に飴玉を含んでいた。今回,口腔内の飴玉除去への拒否感が強く,また顎タッピングのために歯科治療の実施が困難であったため,亜酸化窒素吸入鎮静法とクラシック音楽の聴取を併用して精神鎮静を図り,3回の歯科処置を行うこととした。

 1回目の歯科治療では,亜酸化窒素の投与開始3分後に飴玉を容易に吐き出した。2回目および3回目の歯科治療では,経鼻カニューラを装着したところ自発的に飴玉を吐き出した。亜酸化窒素吸入鎮静下で,顎タッピングなく3回の治療を終えた。

 理解度の低い認知症患者に対しては,静脈内鎮静法や全身麻酔法が適応となる。前頭側頭型認知症患者の歯科治療において,亜酸化窒素吸入鎮静法を用いたところ,円滑に歯科治療を施行できたことから,亜酸化窒素吸入鎮静法も認知症患者の行動調整の一方法となりうることが示唆された。

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© 2017 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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