2017 年 32 巻 3 号 p. 365-372
訪問歯科診療の対象となる高齢者のなかには,新製した義歯を装着せず旧義歯を装着し続けたり,あるいは義歯そのものを使用しなかったりする者がいる。本研究では,訪問歯科診療において,新製義歯の適応症例と判断し,義歯を作製したものの,その後の使用にいたらなかった要因を検討することを目的とした。
対象は訪問歯科診療で義歯を新製した患者108名とした。調査項目は,年齢,性別,既往歴,要介護度のほか,咬合支持域,義歯の使用状況などの口腔内の状態,および新製義歯の使用状況とした。新製した義歯を上下顎別に,「新製義歯使用あり」と「新製義歯使用なし」の2群に分け,各因子の比較を行った。また,年齢,性別,義歯使用経験および要介護の有無を調整因子とし,ロジスティック回帰分析を行った。
上顎88症例,下顎83症例を検討したところ,上顎では7例(8.0%),下顎では7例(8.4%)が新製義歯の使用にいたらなかった。新製義歯を使用しなかった者において,義歯の使用経験がない者の割合は,上顎では71.4%,下顎では85.7%と高い割合を示した。ロジスティック回帰分析の結果,「義歯の使用経験がない」ことは,「新製義歯を使用しないこと」と上下顎ともに有意に関連していた。
訪問歯科診療において義歯を作製する際,義歯の使用経験がないと,新製義歯を使用しない可能性が示唆された。