2019 年 34 巻 2 号 p. 127-135
サルコペニアは高齢者の口腔領域にも現れるとされている。われわれは舌の加齢変化による舌筋の萎縮と運動機能低下は,舌の厚さや筋力のみならず硬さにも影響があると考えた。本研究は,超音波エラストグラフィのうちStrain Elastography(SE)を用いて,安静時と液体保持時による舌の硬さの違いを測定することを目的とした。平均年齢26.1±1.1歳の健康成人10名(男性5名,女性5名)を対象とした。被験者座位にて,安静時と水およびとろみ水3 mLを保持した状態の舌の硬さと厚さを測定した。舌の硬さの測定には,超音波診断装置(Noblus,日立製作所,東京)のReal-time Tissue Elastographyの測定項目のうちStrain Ratio(SR)を用いた。各条件下で1人当たり7枚の画像を記録し,舌の硬さと厚さを測定して,その平均値を各代表値とした。また厚さから陥凹深度を求め,硬さとの関連についても検討を行った。被験者10名のSR値の中央値は,安静時が0.69,水保持時が0.48,とろみ水保持時が0.44であり,安静時と比較して水保持時において舌が有意に硬くなった。また水保持時の舌の陥凹深度は,安静時と水保持時の舌の硬さとの間に有意な負の相関関係が認められた。今後,超音波エラストグラフィを用いて高齢者の舌の測定を行い,他の条件や加齢変化についても検討を行っていきたい。