老年歯科医学
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臨床報告
認知症の舌癌患者に対し,周術期口腔機能管理を通して経口摂取支援を行った一症例
湯川 綾美山添 淳一和智(千北) さとみ山田 朋弘和田 尚久
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2019 年 34 巻 2 号 p. 136-142

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抄録

 超高齢社会を迎えた日本では,認知症患者は2025年には700万人(約20%)になると推計されている。認知症患者の増加に伴い,歯科医療やケアの実施が困難となる患者が増加している。今回,認知症を合併している舌癌の高齢患者に対し,術前より包括的ケア技法を取り入れた周術期口腔機能管理を通して経口摂取支援を行い,良好に経過した症例を経験したので報告する。

 症例は67歳男性で,舌の疼痛を自覚し,近歯科医院受診後に当院顔面口腔外科を紹介受診した。舌・口底癌(T4aN2M0)の診断の下,腫瘍切除術および再建術が計画された。当院入院2年前に脳梗塞の既往があり,左上下肢の軽度麻痺および認知機能低下が認められた。術前より周術期口腔機能管理を行った。術後は摂食嚥下機能が著しく低下し,リハビリテーション(以下リハ)も困難と予測されたが,術後咽頭機能が維持されたため経管栄養を併用した嚥下調整食の一部経口摂取をゴールとした摂食嚥下リハを行った。リハ中は認知症患者への包括的ケア技法を取り入れた。リハに対する理解力不足や意欲低下から負担が大きい摂食嚥下リハ継続は困難と思われたが,退院時には設定したリハゴールを達成し,回復期病院転院後も口腔機能リハを積極的に継続し,現在にいたるまで約2年間機能維持ができている。口腔癌の手術後に極度に口腔機能が低下した認知症患者においても急性期病院入院中から適切にリハを行い,経口摂取を維持することでフレイルの進行を予防できることが示唆された。

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© 2019 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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