老年歯科医学
Online ISSN : 1884-7323
Print ISSN : 0914-3866
ISSN-L : 0914-3866
認定医審査症例レポート
脳出血後遺症を有する患者に歯科訪問診療を行い栄養状態と自立度の改善を図った症例
大森 友花古屋 純一佐藤 裕二
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 36 巻 supplement 号 p. 47-50

詳細
抄録

 緒言:わが国における要介護の原因第2位は脳卒中であり,脳卒中後遺症を有する高齢者の口腔管理は歯科においても重要な課題である。今回,特別養護老人ホームに入所中の脳卒中後遺症を有する高齢者に対して,歯科訪問診療を行い,栄養状態と食事の自立度の改善につながった1例を報告する。

 症例:患者は初診時78歳の男性。脳出血後遺症による左片麻痺と認知機能低下があり,要介護状態となった。最近ADLの著明な低下を認め,特別養護老人ホームに入所した。入居時より喫食量が少なく,低栄養および虚弱の状態にあり,施設職員から訪問診療の依頼があった。診断は,上下顎義歯不適合による咀嚼障害および構音障害,口腔衛生不良とした。また,患者は義歯を自力で外すのが困難で,義歯を口腔内に装着したまま口腔清掃を行っていた。

 経過:初診時に使用中義歯の調整を可能なかぎり行い,口腔清掃指導を行った。その後,着脱の容易さに配慮した上下顎新義歯を製作した。新義歯装着後は,調整により疼痛なく経過し,食形態はペースト食から常食に改善することができ,喫食量も増加した。その結果,体重が増加し,低栄養の改善につながり,発語の増加や簡単な会話が可能となったと考えられた。また,適切な口腔衛生管理により,自力で着脱可能となるなど義歯の取り扱いを含めたセルフケアが向上した。脳卒中後遺症を有する高齢者では,義歯に起因する食事の問題を有することが多いが,歯科訪問診療によって改善できる可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2021 一般社団法人 日本老年歯科医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top