2023 年 37 巻 supplement 号 p. 25-29
緒言:要介護高齢者にとっても,食事は大切な生活の楽しみであるが,全身や口腔の疾患に起因するさまざまな問題によって,食事を十分に楽しめないことも多い。そこで,施設入所中の要介護高齢者に対して,基礎疾患や生活環境を考慮した訪問診療を行った1例を報告する。
症例:患者は76歳の男性,「入れ歯がなく噛めないため,噛んで食べたい」という主訴で訪問診療にて受診した。既往歴に心房細動,高血圧症があり,脳梗塞を発症した後,認知症,パーキンソン病の進行により在宅生活困難となり,施設に入所した。上下顎義歯は紛失し,すれ違い咬合であった。食形態は全粥・刻み食で,食事と口腔ケアは自立していた。
経過:口腔衛生指導後,保存困難歯を抜歯し,その後,上下顎新義歯を製作した。手指の巧緻性や認知機能低下を考慮し,義歯着脱や口腔衛生指導を患者と介護士へ行った。義歯調整後には,食事場面の観察を行い,食形態を段階的に常食に改善したことで患者の満足感を得ることができた。3カ月後に右下臼歯部が歯根破折し,抜歯と義歯修理を行ったが,良好に経過している。
考察:本症例では,基礎疾患や居住環境を考慮したうえで,抜歯や義歯新製作などの歯科治療,食事場面観察による食支援,施設職員との連携を包括的に行うことで,患者の主訴を改善できたと考えられた。進行性疾患であるため,今後も定期的な口腔健康管理と食支援を継続する必要があると考えられた。