2023 年 38 巻 1 号 p. 18-22
77歳の女性が歯肉からの自然出血を主訴に当診療所を受診した。右側下顎第二大臼歯周囲歯肉からの自然出血を認めた。また,全顎的に中等度から重度の辺縁性歯周炎に罹患しており,プラークスコア100%,プロービング時の出血率88%と口腔衛生状態不良であった。血液検査で血小板数軽度低下(138,000/μL,基準値:140,000~379,000/μL),PT-INR値(1.22,基準値:0.90~1.13)やAPTT(45.7,基準値:24.0~34.0)などの凝固因子の軽度延長を認め,血清総タンパク高値(10.4 g/dL,基準値:6.5~8.2 g/dL)と異常所見を得たが,止血能は許容範囲であったため右側下顎第二大臼歯の抜歯を行い,縫合およびシーネにより止血が得られた。その後,血液内科専門医に対診したところ,血清IgMが7,077 mg/dL(基準値:52~270 mg/dL),β2-ミクログロブリンが2.6 mg/L(基準値:0.9~1.9 mg/L)と高値を示しマクログロブリン血症の診断にいたった。特に高齢者において原因不明の総タンパク高値と止血困難な口腔内出血に遭遇した場合,全身状態として血小板や凝固因子,血管壁,線溶系の異常を検討する。『抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版』に止血困難となった際に考えられる原因疾患としてWMは記載されていないが,本疾患も念頭において血液内科専門医へ対診することが肝要と考えられた。さらに,口腔衛生状態不良や血清IgMが3,000 mg/dL以上の場合は抜歯後出血のリスクが高いため,口腔衛生指導にとどめて血漿交換を優先することが望ましいと考えられる。