2023 年 38 巻 supplement 号 p. 9-13
緒言:口腔機能低下症は,加齢による口腔機能低下に着目した疾患だが,比較的若齢でも多数歯を喪失し口腔機能が衰え老化が早まる可能性がある。今回,50代の無歯顎患者に対し,口腔機能検査結果に基づき訓練を行った結果,症状改善が認められたので報告する。
症例:59歳,男性。下の歯茎が腫れて噛めないことを主訴に来院した。上顎は無歯顎,下顎はのみ残存しており,歯科受診は20年くらい前からなく,義歯装着歴もなかった。現病歴に冠攣縮性狭心症,高血圧症,脂肪肝があった。
経過:根尖性歯周炎,右顎下腺唾石症と診断し,残存歯の抜歯と右顎下腺摘出術を行い,上下顎全部床義歯を製作した。義歯装着後,咀嚼機能は回復したが,患者が口腔乾燥を訴えるようになった。口腔粘膜湿潤度と刺激時唾液量は基準値以下で,他の機能低下も認めたため,副交感神経刺激による唾液分泌を図るため,舌回転訓練を含めた口腔機能訓練指導を行った。口腔粘膜乾燥は訓練指導開始後に改善を認めた。
考察:本症例は一般的な口腔機能低下症患者より若干若齢だったが,唾液腺摘出による器質的変化を原因とした機能障害だけでなく,義歯装着経験がないことから,口腔機能が低下している可能性があると考えた。検査の結果,口腔機能低下症と診断し,訓練開始後は口腔乾燥は改善し,初回基準値以下であった舌圧についても維持している。今後も定期的な検査を実施し,口腔機能,特に唾液分泌を中心に管理していく予定である。