老年歯科医学
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38 巻, supplement 号
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認定医審査症例レポート
  • 星野 照秀, 片倉 朗
    2024 年 38 巻 supplement 号 p. 80-83
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

     緒言:骨吸収抑制薬による顎骨壊死(以下,ARONJ)stageⅡの治療は,2016年に発表されたポジションペーパーでは保存療法が第一選択とされてきた。しかし,近年は外科的療法を施行して良好な経過を得た報告が増加している。今回われわれは,ビスホスホネート製剤(以下,BP)を内服している高齢者にみられたARONJ(stageⅡ)に対して,早期に外科的療法を施行してQOLの向上を認めた1例を経験したので報告する。

     症例:80歳の女性。2022年5月に抜歯後疼痛を主訴として来院した。既往歴に乳癌があり,骨粗鬆症の治療中である。現病歴は2022 年3月に近在の歯科医院でを抜歯し,経過が不良で当科紹介となった。部に骨露出と排膿を認め,疼痛で食事摂取量が減少傾向にあった。

     経過:治療上の問題点として乳癌の治療歴と骨粗鬆症の治療中であること,骨露出や排膿を認めていること,食事摂取量が減少していること(QOLの低下)が挙げられた。医科への対診で患者はBP製剤を5年間内服していたことを確認した。患者はADLが自立し,ARONJ の局所的修飾因子が少ないことから,2022年7月にARONJ(stageⅡ)の診断下に全身麻酔下で壊死骨の搔爬と周囲骨切除を施行した。術後,創部は良好で,感染や骨露出も認めていない。

     考察:今後は,stage分類に限らず外科的療法への移行を積極的に検討することが必要になる。一方で,保存療法を施行する期間は十分な検討が必要で,外科的治療へ移行を円滑に進めることが今後はより重要になると考えられた。

  • 重本 心平, 堀 一浩, 小野 高裕
    2024 年 38 巻 supplement 号 p. 74-79
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

     緒言:脳血管障害後の高齢患者に舌接触補助床(PAP)を適用し良好な結果が得られたため,その概要を報告する。

     経過:71歳,女性。30年前に左被殻出血術後,右半身麻痺を認めたが,Activities of Daily Livingは自立していた。今回,転倒による右大腿骨転子部骨折で手術を施行し,入院14日目に右上下肢麻痺の増悪と舌運動機能不良が出現し意識障害となった。精査の結果,症候性てんかんによる症状と判断され絶食となった。入院21日目に嚥下内視鏡検査を施行した結果,送り込み障害はあるが明らかな誤嚥所見は認めなかった。経口摂取を開始したが,摂取量が増えず入院56日目に胃瘻造設となった。67日目に意識レベルが改善してきたため,義歯修理を行った。79日目に義歯口蓋部をPAP形態に形成し,入院92日目にVF検査を行ったところ,義歯なしでは口腔通過時間48秒であったが,PAPを付与した義歯を装着すると口腔通過時間は9秒と送り込み障害が改善した。施設退院後に経口3食に移行し,その後自宅退院となった。

     考察:本症例は,症候性てんかんをきっかけに経口摂取が不可となった。しかし,嚥下障害の病態が準備期・口腔期が主体であったため,上顎義歯口蓋部にPAP形態を付与して舌と口蓋との接触不良による送り込み障害を改善したことにより,経口摂取の再獲得にいたったと考えられる。

  • 井上 昂也, 山添 淳一, 柏﨑 晴彦
    2024 年 38 巻 supplement 号 p. 69-73
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

     緒言:ビスフォスフォネート(BP)製剤の長期服用は顎骨壊死リスクがあり,抜歯後合併症のハイリスク要因となるが,咀嚼の妨げになる不良な歯の残存は口腔機能低下,低栄養の要因となる。今回,BP製剤長期服用の骨粗鬆症患者に対し,残根上義歯作製により咀嚼能力が改善し,食品摂取状況の改善がみられた症例を経験したので報告する。

     症例:87歳,女性。上顎臼歯部の動揺による食事摂取困難を主訴に歯科受診。既往歴に骨粗鬆症があり,BP製剤を長期服用。口腔衛生状態不良であり,残根歯,動揺歯を多数認めた。

     経過:初診時,咀嚼能力を「内田らの摂食状況調査表」にて評価したところ,食品摂取可能率は45%であった。口腔機能検査では5項目で口腔機能低下症を認めた。抜歯適応歯を認めたが,全身状態や栄養状態,早期摂食改善の希望を考慮し抜歯は行わず,上下顎残根上義歯を作製し,咀嚼能力改善を図ることとした。義歯装着から約1カ月後には,食品摂取可能率は60%に増加し,口腔機能検査でも数値改善が認められた。

     考察:今回,残根上義歯作製により咀嚼能力が改善したことで,経口摂取可能な食事のバリエーションが増加し,効率的な栄養摂取が可能となったと考える。また,患者の主訴を改善することができたことで,食事に対するモチベーション向上にも寄与できたと考える。

  • 尾池 麻未, 山添 淳一, 柏﨑 晴彦
    2024 年 38 巻 supplement 号 p. 64-68
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

     緒言:水頭症に対するシャント術後の中脳下垂によって生じたパーキンソニズムによる摂食嚥下障害の高齢者に対して,経口摂取再開を目的とした摂食嚥下リハビリテーションを行った症例を報告する。

     症例:65歳,女性。X年4月頃から固形物の飲み込みにくさを自覚した。その後,水分摂取も困難となり,6月に当院脳神経内科に入院となった。パーキンソニズムおよび嚥下失行と診断され,入院8日後に摂食嚥下リハビリテーションならびに口腔健康管理の依頼を受け,当科初診となった。初診時の口腔機能精密検査の結果,咀嚼能力の極度な低下を認めた。

     経過:入院12日後よりゼリーを用いた直接訓練を開始し,入院28日後には昼のみ嚥下調整食3(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021に準ずる)を開始することができた。しかしその2日後にL-dopaの副作用による不随意運動が悪化し,再度ゼリーを用いた直接訓練に変更した。入院40日後には再度昼のみ嚥下調整食3を開始することができた。入院60日後に転院となるまで直接訓練を継続し,最終的に3食とも嚥下調整食4を摂取できるようになった。転院前に行った口腔機能精密検査では咀嚼能力の大幅な上昇を認めた。

     考察:本症例では,悪化傾向のパーキンソニズムを呈する患者でありながら,可及的早期に,かつ継続的に患者の口腔機能の変化に寄り添った医療を提供することで,摂食状況の改善に貢献することができた。

  • 松永 一幸, 古屋 純一
    2023 年 38 巻 supplement 号 p. 24-28
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

     緒言:脳卒中発症後は肺炎を合併しやすく,肺炎を合併した場合は機能的予後の悪化につながるとの報告がある。一方で,脳卒中発症早期からの口腔管理は,肺炎予防に有用とされている。今回,脳梗塞を発症した高齢患者に対して,肺炎予防のために入院早期から口腔管理を実施し,口腔環境および食事摂取状況を改善した症例を経験した。

     症例:83歳男性,身長147.2 cm,体重52.7 kg(BMI 24.3 kg/m2)。2021年8月に左半身の脱力感を生じ,脳梗塞と診断された。入院当日の看護師による口腔評価後,入院3日後に歯科介入した。残存歯は上顎0本,下顎6本で,左下1・2番と右下3番は顕著に動揺し,周囲歯肉から排膿があった。上顎義歯は容易に脱落し,下顎義歯は残存歯の移動により,装着不可能であった。

     経過:歯科介入前は均質なペースト食を2〜4割摂取していたが,口腔衛生管理および動揺歯の抜歯後は8〜10割摂取が可能となった。さらに義歯修理後は,不均質なペースト食の10割摂取が可能となった。入院17日後に回復期病院へ転院となったため,同病院の協力歯科医院へ継続的な口腔管理を依頼した。転院後48日時点において全粥・軟菜を自力摂取し,口腔環境も維持していると報告を得ている。

     考察:本症例は,脳梗塞を発症した高齢患者に対して入院早期から口腔管理を実施できたことで,口腔環境および食事摂取状況の改善につながったと考える。

  • 市川 陽子, 田村 文誉, 菊谷 武
    2023 年 38 巻 supplement 号 p. 18-23
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

     緒言:在宅での介護が推奨される状況において,高齢者の在宅療養を支える家族の存在はさらに重要となっている。今回,脳梗塞後在宅退院した高齢患者が経口摂取を再開し,日常生活動作の改善を認めた。その家族の介護力を把握し,家族への援助について考察した1例を報告する。

     症例:患者は脳梗塞を発症し,胃瘻造設後に経管栄養のみの状態であった。嚥下内視鏡検査にて,口腔咽頭移送時間の延長と嚥下反射惹起遅延を認めた。

     経過と考察:家族に日中リズムを整えることを指導し,姿勢調整のうえ,経口摂取を再開した。家族は患者を毎朝車椅子に移乗させ,機能に応じた嚥下調整食を準備し,また編集した脳梗塞発症前の患者の動画をベッドサイドで再生するというようなかかわりもみられた。介入1カ月後より意識レベルの改善がみられ,6カ月半後には500 kcal/dayを経口摂取可能になり,訓練時に介助で立位が可能となった。在宅介護スコアや質問用紙での評価にて家族の介護力はバランス良く高く,家族を含めた患者へのかかわりが日常生活動作の改善の一助となったと考えられたが,主介護者の介護負担は上昇した。現在も訪問ごとに介護負担の程度を聴取し,介護食の調理法などの情報提供や介護者の悩みを聴くサポートを行っている。今後も患者とその家族の生活の質を守るため,多職種による継続したかかわりが重要と考えられる。

  • 原田 佳枝, 西 恭宏, 西村 正宏
    2023 年 38 巻 supplement 号 p. 9-13
    発行日: 2023/07/11
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

     緒言:口腔機能低下症は,加齢による口腔機能低下に着目した疾患だが,比較的若齢でも多数歯を喪失し口腔機能が衰え老化が早まる可能性がある。今回,50代の無歯顎患者に対し,口腔機能検査結果に基づき訓練を行った結果,症状改善が認められたので報告する。

     症例:59歳,男性。下の歯茎が腫れて噛めないことを主訴に来院した。上顎は無歯顎,下顎はのみ残存しており,歯科受診は20年くらい前からなく,義歯装着歴もなかった。現病歴に冠攣縮性狭心症,高血圧症,脂肪肝があった。

     経過:根尖性歯周炎,右顎下腺唾石症と診断し,残存歯の抜歯と右顎下腺摘出術を行い,上下顎全部床義歯を製作した。義歯装着後,咀嚼機能は回復したが,患者が口腔乾燥を訴えるようになった。口腔粘膜湿潤度と刺激時唾液量は基準値以下で,他の機能低下も認めたため,副交感神経刺激による唾液分泌を図るため,舌回転訓練を含めた口腔機能訓練指導を行った。口腔粘膜乾燥は訓練指導開始後に改善を認めた。

     考察:本症例は一般的な口腔機能低下症患者より若干若齢だったが,唾液腺摘出による器質的変化を原因とした機能障害だけでなく,義歯装着経験がないことから,口腔機能が低下している可能性があると考えた。検査の結果,口腔機能低下症と診断し,訓練開始後は口腔乾燥は改善し,初回基準値以下であった舌圧についても維持している。今後も定期的な検査を実施し,口腔機能,特に唾液分泌を中心に管理していく予定である。

  • 本釜 聖子, 市川 哲雄
    2023 年 38 巻 supplement 号 p. 1-8
    発行日: 2023/07/11
    公開日: 2023/07/20
    ジャーナル フリー

     緒言:パーキンソン病を有し,摂食嚥下障害のある高齢患者に義歯治療と摂食機能療法を実施し,良好な結果が得られたので報告する。

     症例:78歳,男性。咀嚼・構音障害とむせを主訴に来院した。パーキンソン病を有し,誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返していた。上顎部分床義歯(PD),下顎全部床義歯(CD)が装着されていた。義歯は度重なる破損・修理で劣化し,人工歯の咬耗により咬合高径の低下を認め,舌の動かしにくさを感じていた。口腔機能検査値は,口腔湿潤度以外の項目で低値を示した。さらに,嚥下内視鏡検査(VE)で嚥下機能の低下を認めた。診察・検査の結果からPD/CD不適合による咀嚼・構音障害,パーキンソン病による咀嚼・構音・嚥下障害,口腔機能低下症と診断し,義歯治療と摂食機能療法を計画した。

     経過:義歯は通法に従って製作し,咬合高径は前歯部で5 mm挙上した。摂食機能療法は週1回実施し,自宅でも行うよう指導した。その結果,口腔機能検査値は改善を認めた。嚥下機能の改善はないものの,服薬状況が確認でき,食姿勢の改善,むせ時の対応が可能になり,誤嚥性肺炎の発症はなくなり,経過良好である。

     考察:今回,義歯治療と摂食機能療法を並行して行い,パーキンソン病の病態を理解し,咀嚼・構音・嚥下障害に対して総合的にアプローチを行った。これによって,口腔機能が改善,QOL(Quality of Life)が向上し,誤嚥性肺炎予防につながったと考えられる。

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