日本においては高齢者の増加に伴って口腔癌の新規罹患者も経年的に増加している。現在,年間で約10,000人の新規罹患者が存在し,そのうち65歳以上が70%以上を占めていると推定される。しかし,どの領域においても高齢者の癌患者に対する治療の適応基準や予後を示したガイドラインは少なく,治療方針は医療者の経験や施設の状況により決められることが多かった。日本口腔腫瘍学会は,厚生労働省第4期がん対策推進基本計画分野別施策の「高齢者がん診療指針策定に必要な基盤整備に関する研究(代表者:田村和夫)」に参加し,2025年に『高齢者口腔がん治療ガイドライン』を発刊するに至った。高齢口腔癌患者に特有の問題は,オーラルフレイルを背景にもつ高齢者にとって病状の進行とその治療がさらに口腔機能を低下させるリスクがあることである。本稿では,口腔潜在的悪性疾患の概念とそのなかで高齢者に多い疾患の病態と対応,そして高齢者の口腔癌の治療に対する診療態度について『高齢者口腔がん治療ガイドライン』を中心に概説する。