抄録
高齢者においては, 顎口腔系の生理的加齢変化に加えて, 機能歯の喪失をはじめとする咬合関係の変化とそれに伴う摂取食品の形態や性状の変化, さらには, 全身疾患などの種々のストレスが原因となって病的老化が進行し, 咀嚼機能の低下に拍車がかかることが考えられる。そこで本研究では, 加齢と咀嚼が下顎骨の骨塩量に及ぼす影響を検索するために, 雄Donryuラットを用いて, 対照群として, 固形飼料にて飼育した30・43・47・60・74週齢の5群を, また, 粉末飼料群として, 43週齢になった時点で粉末飼料に代えて飼育した47・60・74週齢の3群を, さらに, 臼歯切除群として, 43週齢の時点で臼歯歯冠部を切除した後, 粉末飼料に代えて飼育した同3群を設定し, 下顎骨の相対的平均骨塩量指数 (以下BMDとする) を測定し, 比較した。得られた結果は以下の通りである。
1.下顎頭部のBMDは, 対照群において, 47週齢までは加齢に伴い増加し, その後は, 減少する傾向が認められた。また, 粉末飼料群および臼歯切除群におけるそれは, 47週齢以降, 加齢に伴い減少する傾向が認められ, さらに, 対照群に比して有意に減少していた (p<0.01) 。
2.咬筋付着部および切歯部のBMDは, 対照群において, 60週齢までは加齢に伴い増加し, その後は, 減少する傾向が認められた。また, 粉末飼料群および臼歯切除群におけるそれは, 60週齢以降, 加齢に伴い減少する傾向が認あられ, さらに, 対照群に比して有意に減少していた (p<0.05) 。
3.下顎頭部, 咬筋付着部および切歯部におけるBMDについて, 対照群に対する粉末飼料群ならびに臼歯切除群の比を検討したところ, 下顎頭ではすべての週齢において, また, 咬筋付着部では60・74週齢群で, 切歯部よりも有意に低値を示していた (p<0.05) 。
以上の結果から, 加齢および摂取食品, 咬合関係の変化に伴う下顎骨の力学的環境の変化によって, 下顎骨の粗鬆化が促進される可能性のあることが推測された。