抄録
脳血管障害や痴呆を基礎疾患として合併している場合に限らず, 高齢者では加齢的変化により嚥下の予備能力が低下しており, 気道の入口である口腔内での煩雑な操作を伴う歯科治療に際しては, 誤嚥の危険性に細心の注意を払わなければならない。本研究では, 特別養護老人ホーム入所者を対象として, 『水のみテスト』時の口腔相での舌運動機能を断層エコーにより観察した。
『水のみテスト』では, 摂食時に嚥下障害が指摘されていた者はすべて「異常」と判定され, 咽頭への送り込みの障害や口唇の閉鎖不全, 奥舌への送り込みの障害を示唆するエピソードが観察された。また, 摂食時に明確な嚥下障害で認められなくても, 『水のみテスト』で「異常」と判定された者では, 日常生活での平均摂食時間が延長しており, 嚥下機能がかなり低下していると考えられた。
断層エコーでは, 『水のみテスト』の評価に応じた所見がみられ, 咽頭への送り込みの障害を示唆された症例では, 舌背の凹みの形成と口蓋への押し付けが認められず, 含んだ水をいきなり咽頭へ送り込む様子がみられた。また, 口唇への閉鎖不全や奥舌への送り込みの障害を示唆された症例では, 舌運動がぎこちなく, 連続性に欠ける様子がみられた。義歯装着と舌運動の巧緻性については, 義歯を必要としない者と比較して, 義歯装着者では, 総じて舌の動きが緩慢で, 力強さに欠け, 口蓋への舌の押し付けがうまくいかない様子がみられた。