抄録
循環器系基礎疾患を有する特別養護老人ホーム入所者に対して局所麻酔を必要とする歯科治療を行う際に, トノメトリ法による非観血的連続血圧測定装置を試用し, 循環動態の変動を監視するとともに, その有用性について検討を加えた。
対象者21名の平均年齢は77.1歳で, 基礎疾患の内訳は, 脳血管障害16例, 虚血性心疾患11例, 高血圧症10例, 不整脈6例であった。局所麻酔にはフェリプレシン含有のプリロカイン (平均麻酔量: 2.6ml) を用い, 平均治療時間は22.2分であった。
トノメトリ法による測定値は, カブを用いた従来のオシロメトリック法による測定値と極めて有意な相関性と高い一致性を示した。また, オシロメトリック法では追随できなかった急激な血圧の変動を, トノメトリ法では着実に捉えていたことが判った。
高齢者では, 全身状態が比較的良くコントロールされ, 安静時心電図に異常所見が無くても, 局所麻酔や治療行為に際しての血圧の上昇は避けられず, 上室性および心室性の期外収縮も高頻度でみられた。従って, 歯科治療時の心電図のモニタは必須であり, さらに, 期外収縮や心房細動のように脈拍欠損を伴う不整脈に対しては, 動脈圧波形を観察することにより心臓のパフォーマンスに関する情報も得られるトノメトリ法による血圧測定は, 極めて有用なモニタであると考えられた。