抄録
重度痴呆性老人における食事形態と口腔内状態との関連性について検討した。対象は, 特別養護老人ホームに入所の痴呆性老人81名 (平均80.6歳) で, 疾患の内訳は, アルツハイマー病が最も多かった。調査方法は, 対象者を食事形態によって, 普通食摂取者 (普通食群) と刻み食摂取者 (刻み食群) に大別し, これと日常生活動作 (Activities ofDaily Living: ADL), 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (Revised Hasegawa'sDementia Scale: HDS-R), 義歯の有無, 残存歯, 機能歯, 天然歯などとの関係について検討した。ADLは, 「食事」「入浴」「着脱衣」「排泄」「洗面」の5項目について調査し, その各々について, 自立を3点, 一部介助を2点, 全介助を1点としてADLスコァーを算出した。その結果,
1.普通食群は刻み食群よりもADLスコアーが高かった。
2.普通食群は刻み食群よりも義歯の装着率が高かった。
3.普通食群は刻み食群よりも機能歯数が多かった。
4.普通食群, 刻み食群それぞれの機能歯数のパーセンタイルを求めたところ, 機能歯数が8歯のところで逆転した。すなわち, 8歯以上の機能歯をもつ者は普通食をとる可能性が高く, 7歯以下になると刻み食をとる可能性が高かった。
5.普通食群と刻み食群の間に痴呆の程度に有意な差は認められなかった。
以上の結果から, 痴呆性老人が普通食を摂り続けるためには, ADLの低下を抑えること, および機能歯を多くすることが必要であると考えられた。